その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~
そして彼女のような可愛らしい子がとんでもない下ネタを平気で言うのを止めなければという保護者のような気持ちになった。聞いててなんとも居たたまれない。
朱音ちゃんは俺に女への独占欲というものは存在しないだろうと見切っていて、自分の気持ちをわかりやくす俺に想像させようと万年筆を用いて説明してくれた。
彼女の例えでは恋愛に関して抱く気持ちとかけ離れ過ぎていて理解は出来なかったものの、語られた話があまりにも切なくてなんと言葉を掛けたらいいのか、咄嗟に浮かばなかった。
どれだけ女を抱いてきたといっても、必死に口説いたり喜ばせてあげようなんて考えたこともない。
目の前の女の子に掛けるべき言葉すら見つけられない。それがどうにも歯痒くて、帰りがけにランチ代だと嘯いてキスをした。セックスをする時以外でキスをしたのも初めてだった。
この頃にはもう、俺は彼女に堕ちていたのかもしれない。
エレベーターで8階まで上がると、ビルの受付とは別にスパークルの小さな受付がある。
そこでも先程のように名前を告げると、受付に立っていた同年代くらいの女性が「中原さん?」と俺の後ろの朱音ちゃんを呼んだ。
「え、知り合い?」
相変わらず顔色の優れない彼女を振り返ると、蚊の鳴くような声で「元、職場なんです」と言った。
元職場。それがなぜこんなにも不穏な空気にさせるのか。
心配で俯いた彼女の顔を覗き込もうとした時、「お待たせしました!」と担当の佐藤という男がやってきた。