その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

そんな真っ黒で醜い感情をぶつけるようにキスを続ける俺を正気に戻したのは、彼女の瞳からとめどなく流れる冷たい涙だった。

隙きを突いて振り払った手が俺の左頬を打つ。その衝撃というよりは自分のしてしまったことの愚かさにその場でしゃがみ込み、合わす顔もなく俯いたまま呻いた。


『……君が好きだ』


2週間前は言わせてもらえなかった言葉をついに言った。
でも彼女の感情はひとつも動かせなかった。


資料室を出ていった朱音の背中を無言で見つめる。彼女は1度も俺を見ようとはしなかった。

『…本当に少しでも私を好きなら、もう私に構わないで下さい』

朱音は俺にそう言った。
しかしもう俺の想いは彼女だけに真っ直ぐ向かってしまっている。構わないでと言われて「はいわかりました」と言えるほど生半可なものではない。

好きだから。いつの間にか、こんなにも好きになっているから。
どれだけ迷惑そうにされても彼女を追い求めるのを止められそうにない。


『私は誰かの『唯一』になりたいの』


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