その男『D』につき~初恋は独占欲を拗らせる~

きっと、朱音が1番俺に伝えたいのはこの言葉なんだろうと思う。
俺の過去の愚行を知る彼女は、俺を選べば自分が『唯一』になれないと思っている。

どうしたら信じてもらえるだろう。
俺にとって、たった1人が朱音だということを。

無意識に姿を目で追ってしまうのも、どれだけ邪険にされても話しかけてしまうのも、喜ぶ顔が見たくて美味しいと評判のランチの店をいくつも探したのも、誰かを守りたいと思ったのも。

全部、朱音が初めてだった。

一生縁がないと思っていた『恋』におちた。
誰にも渡したくない、傷つけたくない、縛り付けたい。

『初恋』だなんて可愛らしい響きの言葉では足りない。彼女の全てを自分のものにしたい。
そんな激情が自分の中にあっただなんて、俺ですら知らなかったのだから、朱音にすぐに信じてもらえるとは思っていない。

それでも。
このまま彼女が飢えた狼の中に自ら飛び込んでいくのを、みすみす指を咥えて見ているわけにはいかない。

『知ってます?エベレストって登るのに許可が必要なんです。時間もお金もかかるし体力もいる。友藤さん、そんな過酷な山登りたくないでしょ?なだらかな丘をおすすめします』

告白すらさせてくれなかった時に朱音に言われた言葉。いつだったか、俺が彼女のつれない態度に対して『エベレストもびっくり』だなんて軽口を叩いたことを覚えていたんだろう。

彼女は自分を面倒な女だから嫌でしょうと言っている。もっと軽い女を選べと。
さっきも、自分を好きなら構うなと言っていた。

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