先生がいてくれるなら③【完】
──歌っている途中ぐらいから、明らかに倉林がニヤニヤし始め、その笑みの意味を理解したであろう他の連中が苦笑いを始め……。
選曲を失敗したと思ったが、もう時既に遅し。
なんとか最後まで歌い終えて、倉林にマイクを押しつけるように手渡した。
「うっわー、マジで!? 1曲だけとか言って、そんなエロいの歌うとか、大人ってきたねぇ!」
「……うぜ」
「明莉、こんな腹黒エロ教師と付き合ってたら、明莉が汚れる! 今からでも遅くないから、俺に乗り換えない?」
「倉林、おまえ、」
「ま、まぁまぁ、二人ともちょっと落ち着いて……」
最早、カオス……。
もう俺は知らん、あとは適当にやってくれ……。
たっぷりとため息をついたあと立花を見ると、顔を真っ赤にして、他の連中から見えないように俺のシャツを指先で摘まんで引っ張っている。
あー、お前、英語得意だっけ。
そりゃ、だいたいの意味は分かったわなぁ。
ここにいる連中全員、細かいニュアンスは分からないんだろうけど、おおよその意味は分かってるだろう。
俺のシャツを引っ張り続ける立花に「……なに?」と、わざとらしく聞いてみたけど、立花は赤面したまま小さく首を左右に振るだけだった。
はいはい、抗議の意、ね。
別にお前とのことを歌ったわけじゃ無し、そもそもそんな行為もお前とはしてないんだから、その抗議は却下。
立花の頭をグシャグシャと撫でて、「ばーか」と耳元で囁いておいた。