冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 しっかりと腰に回された手は少しでも身じろぎすると、逃がさないとでもいうようにギュッと力がこもる。

 どのくらいの時間この体勢でいるのか、そしてこれからどうすればいいのか必死になって考えている。

 ああ、早くしないと翔平が起きちゃう。

 焦っていると、彼がまたわたしをぐいっと抱き寄せた。首筋に彼の息がかかって体が思わず反応してびくっとしてしまう。それなのに彼がわたしの髪に頭をうずめたので、余計にどうしたらいいのかわからない。

 パニックになりかけていると、背後からクスクスという笑い声が聞こえてきた。わたしは勢いよく起き上がって振り返る。そこには枕に顔をうずめて笑っている翔平の姿があった。

「ねぇ、起きてたの!」

 すっかり騙されていたわたしは、ふくれっ面で彼を睨んだ。すると枕から顔を上げた彼はまだ笑いが収まりきらなかったのか、噴き出して笑いながら言う。

「いや、ひとりでなにか考えてるなぁって……必死になって逃げようとしているから、ついつい」

 わかって腕の力を込めて、わたしを抱きしめていたのだ。ひどい。

「起きてるなら、おはようぐらい言えない?」

 悔しくてどうでもいいことで彼を責める。するとますますおかしくなったのか声をあげて笑い出した。

「悪い、悪い。おはよう、昨日は瑠衣最高にかわいかったよ」

 体を起こした彼は肘をついて頬を支え、甘い言葉を囁いた。それと同時に昨日のあれこれを思い出してしまい、一気に顔が熱くなる。

「な、なに言ってるの?」
 そんな風にストレートに伝えられると、その場のノリで言われたことだとしても照れてしまう。
「それに今もかわいいけどな。朝から絶景」

 にやりと笑った彼の視線はわたしの体に向けられていて……。ハッとしたわたしは自分がまだ一糸まとわぬ姿だとはじめてそこで気が付いたのだ。

「え! きゃぁああ」

 慌てたわたしはシーツをたぐり寄せて、そのまま寝室の続きにあるバスルームに駆け込んだ。
 背後から聞こえる、翔平の笑い声に羞恥心を煽られながら。


 それから身支度を整えたわたしはホテルの近くにあるカフェで、ふわふわのフレンチトーストを目の前にさっきまでの怒りを忘れていた。

 いつもは人でいっぱいのこのお店だが平日ということもあって、すんなり入店できた。席について一度食べてみたいと思っていた、この店自慢のフレンチトーストを注文した。

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