冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「うわぁ、美味しそう! いただきます」

 実はすごくお腹がすいていたわたしは、さっそくナイフとフォークを持つとフレンチトーストをいただいた。しっとりとしていて口の中にほどよい甘さが広がる。メイプルシロップをかけるとまた違う味わいを楽しめた。

「うまいか?」

「あ、うん」

 夢中になって食べていて、翔平のことをすっかりほったらかしにしていた。他の相手なら気を使って絶対に食べることに夢中になるなんてないのに。

 コーヒーを飲む翔平が食べているわたしを見ている。

「なに、どうかした?」

 あまりにじっと見てくるので、不思議になって聞いた。

「ほっぺたに、シロップついてる」

「えっ」

 夢中で食べていたから気が付かなかった。焦ってナプキンで頬を拭う。

「ぷっ、嘘だよ。どこにもついてない」

「なっ! なによそれ。子供みたいなことしないで」

「悪い、ついからかいたくなっただけ」

 クスクスと笑う翔平はいつもと変わらないように見える。わたしは、やっぱりちょっと意識してしまう。

 でもこれまで経験したのとは少し違った。これまで他の人とお泊まりをした翌日は本当に気を使った。彼より早く起きてメイクや身支度をしたり……それからちょっと気まずい時間を過ごすのがお決まりだ。相手の態度を見て昨日の自分がなにか失敗していなかったかと様子をうかがうことに疲れて早く家に帰りたくなってしまう。

 愛を深めるための行為なのに、余計に疲れてしまうことが多い。

 でも今日は違う。

 お酒が入っていたにしても、突発的に付き合っていない人とそういうことをするのは、はじめてのことだった。よく知っている相手だとしても、今までそういうことは一度もなかったのに。だからこそ、もっと気まずい朝を迎えるのだと思っていた。

 確かに気まずくないわけではなかった。朝もどうやってベッドから抜け出そうかと必死になって考えていたし、裸を見られてしまったことも失態だ。

 それなのにわたしは今、翔平と食事をしていて、早く帰りたいとは思っていない。むしろこのゆっくりした朝を楽しんでいた。

 少しは後悔するかと思っていたけれど、そういう気持ちはまったくなかった。かえって翔平との距離が近付いたように思う。

「なあ、感想は?」

「ん? 美味しいよ」

 アイスティーをストローで吸い上げながら彼を見た。もしかして食べたいのかな?
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