冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 わたしは気合を入れて仕事に向かった。

 不思議なことに仕事をしている間は、いつもと変わらない落ち着いた気持ちでいられた。少々の体調の悪さはあったがなんとかなった。

 けれど一度帰宅すると気が抜けたかのように、体調不良と翔平への不安な気持ちが膨らんでくる。今日一日何度も翔平に連絡を取ろうとした。けれどどう切り出していいのかわからずに結局夜になってしまった。

 翔平から真意を聞きたいと思う。けれどこんなに体調が悪い状態ではまともに話をすることができるとは思えない。

 ただでさえマイナス思考なのに、なんでも悪い方向にとってしまいかねない。

 早めに休んで落ち着いてから、彼に連絡を取ろうと早々にベッドで横になることにした。

 翌朝、早く寝たのに一向に体調はよくなっていない。

 洗面台に向かうといきなりまた吐き気に襲われた。手をついてうなだれていると、廊下から姉の声が聞こえてきた。

「ねえ、生理はじまっちゃったからナプキンちょうだいね」

「あ、うん。使って~」

 そう返事をして歯ブラシを取ろうとして手を止めた。

 あれわたしそういえば、前の生理いつだったっけ?

 手帳のページを思い浮かべるが、いつだったか思い出せない。

 もしかして……。

 不安になったわたしは、歯ブラシを洗面台に投げ出して階段を駆け上がる。部屋に入ってバッグから手帳を取り出してめくる。そしてその事実に手が震えた。

「きてない」

 生理が遅れて間もなく二週間が経とうとしている。いつも規則的にくるのにここのところ忙しくしていて、気付くのが遅くなった。

 先日から体調不良。遅れている生理。それが示す結果を想像して固まってしまった。

 気が付けばスマートフォンを手にしていた。画面には翔平の名前。電話をかけようと画面をタップしようとしてやめた。

 こんな不確かな状況で、彼に相談してどうするの? 勘違いかもしれない。

 その日休みだったわたしは、産婦人科の診察がはじまるまで毛布にくるまって、時間を過ごした。

 時々『この手を離すな』と言ったいつかの翔平の声を思い出して、少し泣けた。



 病院に行く前に、ドラッグストアで買った検査薬を試す。結果は陽性。そのまま産婦人科に向かって自分の中に小さな命が芽生えていることを知った。
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