冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 診察の間のことはよく覚えていない。けれどエコーを見たときのことだけははっきり記憶にあった。それを見て自分が妊娠しているのだと自覚できたからだ。

 お医者様が色々と説明してくれたと思うがまったく頭に入っていない。

 どうにか自宅に戻り部屋にこもる。調子が悪いと言っていたので、母は心配していたが「寝るから起こさないで」と言っておく。

 とにかく……落ち着こう。

 ベッドに横になって、今日もらったエコー写真を見る。白黒の画像の真ん中に小さな丸がある。胎嚢というものらしい。心拍もエコーで確認が取れた。わたしはママになったのだ。

 予想はしていたものの、戸惑った。

 けれど画面に映る胎嚢を見た瞬間、それまで体調が悪くて重かった体が少し軽くなった気がした。自分の中に命が芽生えるその不思議な感覚が体を包んだ。

 男の子かなぁ、女の子かなぁ。

 どちらでもかわいいだろうな。

 自分にこんな母性があるなんて新しい発見だ。

 そこまで思って妊娠しているかもしれないとわかってから一度も、わたしは赤ちゃんを諦める想像はしなかったことに気が付いた。答えは出ている。

 あとはどうやってお腹の子と暮らしていくかだ。

 もちろん翔平に伝えるべきだと思う。彼が父親で間違いないのだから。

 そして彼はきっと逃げはしないだろう。でも……まもなくアメリカに行くことが決まっているのにわたしやお腹の子は予定外のはずだ。

 彼にとってアメリカ行きはずっと続けている研究を思い切りできるチャンスだ。

 もしわたしたちが足かせになって思うようにいかなければ、彼は後悔するかもしれない。いや、わたしも、自分が翔平の足をひっぱるなんて、死んでも嫌だ。

 彼には自分の好きな研究をめいっぱいしてほしい。それがいずれ多くの人の命を救うかもしれない。まもなく大きなチャンスがやってくる彼にとって、わたしは足手まといでしかない。

 それに、義務や責任感で一緒にいてほしくない。

 そう考えると胸が苦しくなった。

 お互い気心が知れていて彼の前では家族以上に自分らしくいられた。いつも言い合いをしていて、それさえも楽しかった。

 それなのに……肝心なことはなにひとつ言えないな……。

 そう思うとふと悲しくなった。

 でも……彼を思うならできることがある。そしてわたしにはこの子がいる。
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