冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 自分のお腹を見たけれど、見た目はこれまでとなんの変化もない。けれどこの中に赤ちゃんがいると思うと強くなれた。覚悟を決めたわたしは、勇気を出して翔平にメッセージを送った。


 その週末。

 わたしは翔平といつものバーで待ち合わせをしていた。

 いつにもましてメイクにも服にも気を使った。唯一靴だけは、買ったばかりのローヒールの歩きやすいものだ。それ以外はいつもよりも気合が入っていた。そうすることで、背筋が伸び強い自分になれる気がしたからだ。

 時間より少し前に到着すると、いつもの場所に翔平がいた。ロックグラスの中の琥珀色の液体を見つめている。

 深呼吸をひとつして、彼に声をかけた。

「おまたせ、早かったんだね」

 いつもと同じようなトーンで声をかけることができて、ホッとした。

「ああ、今日は予定通りに仕事が終わったからな」

 彼の隣に座ると「いつものでいい?」と聞かれて頷きそうになり思い直した。

「ううん、今日はオレンジジュースで」

「ジュース? 体調でも悪いのか?」

 いぶかしむ翔平を無視してバーテンダーに「お願いします」と告げた。

「そういうわけじゃないの。今日はちゃんと話がしたいからお酒はやめておく」

 ジュースを受け取りながら、翔平の顔を見る。いつもと変わらない整った顔だったが、わたしがなにを話すのか気になるようで、少し顔が強張っているように見えた。

 彼の表情を見てわたしも緊張する。ちゃんと話ができるだろうか。

 きっと翔平も話の内容が気になるに違いないのに、彼はわたしを急かしはしなかった。出されたオレンジジュースをひと口飲んでわたしは、口を開いた。

「翔平、アメリカ行くの?」

 わずかに彼が目を見開いた。

「知ってたのか? ……ああ、瑠璃ちゃんから聞いたんだな」

 すぐに話がどこから伝わったのかわかったみたいだ。

「本当のことだったんだ」

 もしかしたらなにかの間違いかもしれないと少し思っていたけれど、期待を裏切られた。

「ちょうど話をしようと思ってた。これ――」

 翔平がわたしの反対側にある椅子に置いてあった封筒を手に取った。けれどわたしは覚悟していたものを突き付けられて、胸が苦しくて彼の行動を遮った。

「よかったね。元気で行ってきて」

「え?」
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