君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「あ、ごめん。なんでもないや」


 樹くんは一瞬前までの強張った顔が嘘のように、へらっと微笑むと、軽い口調で言った。


「う、うん」


 気になったけれど、「なんでもない」と言われてしまえばそれ以上聞くことは憚られた。

 ――なんだったんだろう?

 やっぱり何か相談したかったのかな。

 あ、でも私なんかに樹くんが悩みを打ち明けるわけないかあ。

 その後、私たちはカフェを退店し、ショッピングモールの外へ出た。

 ふたりが行きたいところに行けたので、ここで解散することにした。

 一緒に帰ろうかとも言われたけれど、樹くんの家の場所を聞いたら私の家とは反対方向だった。

 彼は「なんだ、残念」と本当に残念そうに言った。

 ――みんなにこんなこと言っているのかな。

 うん、きっとそうだよね。

 少し仲良くなった人にはそういうタイプなんだろう。

 慣れていない私は、いちいち深く考えてしまう。

 それが自分でもちょっと嫌だった。


「楽しかった~。いい気晴らしになったっす。また付き合ってくんない?」


 別れ際、樹くんは楽しそうに笑って言った。


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