天才脳外科医は新妻に激しい独占欲を放ちたい
 しかし理由はなんであれ、病院内で殴ったりしたらなんらかの処分が下る。

 一日でも業務を外されたら、手術を待っている患者さんの症状が進む可能性だってある。

 私の訴えを聞き、陽貴さんは肩で大きく息をしてから手を下ろした。


「失せろ」


 ギリギリと音が聞こえてきそうなほど歯を噛みしめる陽貴さんは、草野さんを解放したあと私の手を引いて、誰もいない脳外外来の診察室に飛び込んだ。

 そしてドアが閉まった瞬間、私を抱き寄せた。


「大丈夫。私は大丈――」
「俺の前で強がるな」


 たしかに『あんなひどいミスをしておいて』という言葉が胸に突き刺さり痛くてたまらない。

 けれど、それに反発する気持ちが湧き起こってくる。
 何度考えてもあのミスは私が招いたわけではない。

 日々患者さんの死や重い障碍と向き合いながら必死に治療を施している陽貴さんは、私より過酷な経験をしているはずだ。
< 160 / 373 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop