【完】セカンドマリッジライフ
こんな調子の彼女を前についつい気持ちが緩んでしまう日がある。笑顔を他人にあけすけに見せる事なんていつぶりだろう。
動物病院とはいっても接客業だからそれなりの愛想は身に着けて来た。 けれど心がほろりと綻んで、自然に笑顔になってしまう日なんてここ数年数える程しかなかったのに。
そして俺が笑顔を見せると彼女はそれ以上に嬉しそうに笑うのだ。
「きゃはッ。利久さん笑顔。やっぱりいいね!」
「人をからかうな…」
緩んだ頬を引き締めて、ポーカーフェイスを作り直し眼鏡を指で持ち上げる。 こほんと一つ咳ばらいをして、目を細めながら彼女を見やる。
「からかってないもーん。 利久さんの時たま見せる優しい笑顔、私好きよ…」
笑いながら言う彼女の’好き’その好きに深い意味はない。 彼女に深い意味がないのは分かっているのに、らしくない程動揺をしてしまう。
深い意味のない’好き’にこんなにドキドキしてしまうなんて。