双生モラトリアム



「……夢……」

目が覚めて、呟いた。

久しぶりに見た……幼い頃の、幸せな時間。まだ無邪気に未来を信じられた頃。

でも、いっくんとの別れから全てが反転したように壊れていって……。

そう言えば、あの頃だっけ。舞が荒れだして私へ辛辣な言葉をぶつけるようになったのは。

3年になる頃には舞の体も丈夫になってあまり病院に行かなくなってたけど。5月から6月くらいまでの2ヶ月、舞は頻繁に病院に行ってた。お母さんが“お見舞いも大概にしなさい。相手も迷惑よ”って言ってたっけ。

(お見舞い……友達でも入院してたのかな)

なぜだか、今その点が気になる。舞は八方美人で深く付き合う相手は相当吟味していたはずだから。

でも、舞に関する思考は体調の悪さに中断された。

「……だるい」

身体中が痛いし、重くてだるい。喉もがらがら。肌がベタついて気持ち悪い。
不愉快だからどうにかしたいのに、体を動かす事すら億劫に思えてしまう。

(……あれから、何日経ったんだろう?)

全然、わからない。
いつも事後に気を失うか疲れきって眠り、違和感で目が覚めれば大抵樹に抱かれてる。彼は逃がすつもりはないようで、両手は縛られ足に枷をつけられて。ベッドすら出られない。
許されるのはトイレに行くとき……樹の監視つきで。

食事はケータリングを頼んでいるらしく、いつも美味しそうなものが運ばれてくるけど、食欲がなくてフルーツかデザートくらいしか食べられない。無理に食べさせられた時、吐いてしまったから無理強いはしなくなったけど。

……どうして、樹はこんなにも私に執着するの?意味がわからない。

きっと、ずっと下に見ていた所有物が反抗的になって気にさわったから……程度なんだろうけどね。
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