双生モラトリアム

この日樹は久しぶりに仕事に出たのか、かなり長い時間マンションに居なかった。
足枷もなくなってたから、多分自由に行動していいってことだろう。

「……お風呂……入らなきゃ」

初めて来た家だから、勝手がわからない。
とにかく、なにか羽織らなきゃと手近にあるクローゼットを開けたけど。なぜか空っぽ。
仕方ない、とベッドのシーツで体を覆ってタンスやクローゼットを開けて衣類を探したけど。……下着類すらなかった。

「え……どうして?」

シーツをずるずる引きずりながら、玄関にたどり着く。ドアノブをガチャガチャやってもドアが開かない。内鍵らしいものは見当たらなくて、どう開けるのか見当もつかなかった。

急いであちこちの部屋にある窓を開けようとしても、鍵が開かない。唯一開いた窓はバルコニーに通じる引き戸で。何とか出られないかとバルコニーに出てみて絶望した。

今いる部屋は地上30階以上あるだろう高層マンションの、最上階だったから。

(閉じ込められてる……なんで?)

全身から力が抜けて、へなへなとその場で座り込む。

樹は、私を閉じ込めてどうするの?
一体、何の意味があるというんだろう。
寒さからだけでなく、樹の意図がわからない恐怖からガタガタと体が震える。

自分を叱咤してどうにか立ち上がるとバルコニーから中へ入り、どうでもいいことに気づいた。

(そういえば……足……治ってる)

デジタル時計だけは壁にかけられていて、時間を見れば2月3日の午後6時と確認できた。

(そういえば……私……職場に明日から出ますと電話したのが22日。あれから2週間近くも経ってたの!?)

いくらなんでも不味い。ただでさえ1週間休んでたのに、さらに無断欠勤なんて!
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