能力を失った聖女は用済みですか?
「いや……聞きたいのはそれじゃなくてな……まぁよいわ。わざわざこんな貧しい集落に、悪さをしに来る人間なんておらんだろうしな。ほれ、娘の服で良かったらこれを着ていけ」

「ありがとう!おじいさん!」

渡された服は、落ち着いた色の深い赤で、この地方特有であろう刺繍が刻まれていた。
シャンバラの民族衣装だろうか?初めて見たけど、動きやすそうでとても美しい。

服を抱え、ささっと衝立の後ろで着替えると、サイズもぴったり、まるで採寸した服のようだった。

「娘が帰ってきたようだな……」

老人は淋しそうに呟いた。
雨が降り土地が潤えば、彼の家族もきっとここに帰ってくる。
そうしたら、もう、淋しそうな顔をしないよね。

「そうだ。おじいさんのお名前は?」

「ワシはハシムじゃ……ふふ、誰かに名を尋ねられるなんて、久しぶりじゃ。ルナ、道中気を付けて行くがいい」

「うん、ハシムさん!また、会いましょうね!」

私がにっこり微笑むと、老人ハシムは曲がった腰をスッと伸ばし、照れ臭そうに笑った。
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