アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「以前、オルキデア様は『私とオルキデア様は似ている』とおっしゃっていました。でもあの時はお互いの境遇のことだと思って……私は『似てない』って答えてしまったんです」

 つばの広い帽子の下で、アリーシャは俯く。

「あれはもしかして、境遇ではなく、お互いに寂しい……寂しがり屋だって、言いたかったのでしょうか?」
「それは……」
「それに、以前、オルキデア様にこうも言ってしまいました。『私なら、死んでも悲しむ人がいない』って。『母もいなくて、父は無関心、他に心配してくれる人がいない』って。
 似た者同士なら、オルキデア様も同じことを思っていたのでしょうか?」

 俯くアリーシャに近づくと、クシャースラは「そんな顔をしないで下さい」と優しい声音で話しかける。

「その言葉の真意は、オルキデアに聞かなければわかりません。ただ、一つだけ否定させて下さい」

 恐る恐る顔を上げるアリーシャに、そっと微笑む。

「アイツが死んでも、貴女が死んでも、誰も悲しまないというところです。少なくとも、おれとセシリアはーー妻は悲しむでしょう。それにおれたちだけじゃない」

 おっかなびっくり見つめてくる菫色の視線を受け止めながら、クシャースラは話しを続ける。

「オルキデアが死んだら貴女が、貴女が死んだらオルキデアが悲しみます。……もう、貴女たちは一人じゃないんです」
「クシャースラ様……」

 一人だって、お互いに寄り添え合えば一人じゃなくなる。
 一人きりだったオルキデアとアリーシャは寄り添い合ったことで、一人きりじゃなくなった。

「アリーシャ嬢。寂しい時や心細い時はアイツの近くに行って下さい。貴女が寂しい時や心細い時はきっとアイツもーーオルキデアも同じ想いでいるはずです」

 そっくりな二人は、きっと同じ時に同じ想いを抱えてしまうだろう。ーーそれも一人で。
 その時に常にクシャースラたちが傍に居られるとは限らないし、その想いを理解してあげられるとは限らない。

「オルキデア自身は恥ずかしくて、なかなか自分からアリーシャ嬢の元には来れないでしょう。それなら、貴女から行って下さい」
「ご迷惑ではないでしょうか……。それに、嫌われてしまったら、どうしたら……」
「迷惑にもならなければ、嫌うことも無いでしょう。何しろアイツは貴女のことが……」

 そこまで言ってクシャースラは思い直す。
 この先は当事者同士が気付いて、言わなければ意味が無い。

 クシャースラは言葉を飲み込むと、「とにかく」と話しを変える。

「アイツは貴女のことを気に入っているようです。これまで特定の女性を長く傍には置いてこなかったので……」

 女性と関係を持っても一夜で捨てるオルキデアにしては、長く傍に置いているアリーシャはとにかく気に入っているのだろう。

「アリーシャ嬢さえよければ、これからもアイツをーー親友を支えて下さい」

 仕事で不在にしがちなクシャースラやセシリアの代わりに、アリーシャには傍についていて欲しい。
 そう、クシャースラは願わずにはいられなかった。
< 112 / 284 >

この作品をシェア

pagetop