アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「それなら、何故、怪我が増える? 本人で無ければ、誰かが傷つけているとでも?」
「その可能性は……。女性の病室の前には監視をつけていますし、異変があればすぐに報告があるでしょう」

 異変があれば、オルキデアにもアルフェラッツから報告が入るはず。
 一体、何が起きているのだろうか。
 すると、医師は「それから、もう一つ」と続きを話し出す。

「食事ですが、全く食べない時があるのです」
「それは、単に食欲が無いだけでは? 食べられない物が出ているとか」
「その可能性も考えました。ですが、同じ時間帯に、同じメニューを用意しても、完食する時と全く手付かずの時があるのです」
「完食するという事は、毒殺を恐れている訳でもないな……」

 怪我が原因なのか、女性的な理由が原因なのか、全くわからない。
 女性的な理由なら、既婚者であり、いつも片付けを手伝ってくれるいつもの親友に聞けばわかりそうだが……。

「早く怪我を治すには、健康的な食事が必要です。記憶を取り戻すのも……。ですが、それを食べないとなると、治るものも治りません」
「それについて、本人は何と?」
「何も……。あまり強く追求して、治療を拒まれる訳にもいきませんし、私共ではどうすることも出来ないのです」

「それに、私はシュタルクヘルト語が出来ないので」と医師は首を振る。
 怪我と食事。何が原因なのだろうか。

「問題が山積みだな」

 女性について箝口令を敷いている以上、基地に在中しているカウンセラーに依頼をして、理由を聞き出してもらう訳にはいかない。

「それで、俺に聞き出して欲しいと?」
「そこまでは……。ただ、誰かが理由を聞いて、対策を立てなければ。このままでは保たないでしょう。心身共に」

 はあと、オルキデアは息を吐き出す。

「わかった。後ほど、様子を見に行こう」
「ありがとうございます」

 仕事に戻るという医師を見送っていたが、ふと思い出したことがあって呼び止める。

「ところで、彼女の仮の名前は決まったのか?」

 医師は首を振る。

「いえ。幾つか候補を挙げてみたのですが、どれもしっくりこないようで……」
「そうか……」

 医師が出て行くと、椅子に深く沈む。
 つい、同じ言葉を繰り返してしまう。

「問題は山積みだな……」

 とんだ拾い物になったな。とオルキデアは頭を抱えたのだった。

< 12 / 284 >

この作品をシェア

pagetop