アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「そうなんですね」
「ああ。夫婦水入らずの時間を過ごしたくてな」

「えっ!?」と慌てるアリーシャに「冗談だ」と返す。

「そんなに慌てるとは……俺と二人きりで過ごすのは嫌か?」
「いいえ! ただ、その……」

 言いづらそうに俯くアリーシャに、オルキデアは「なんだ言ってみろ」となるべく優しい声音で尋ねる。

「前にも言ったが、俺に遠慮する必要はない。自分の気持ちを話してくれ」
「遠慮している訳じゃないんです。ただ、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」

 顔を覗き込もうとすると、耳まで赤くなったアリーシャに「やっぱりいいです」と小声で返す。

「それより、夕食の用意をしますね。マルテさんが用意してくださったので、温め直すだけですぐに出せます」
「そうだな。あまり遅くなるのも身体に良くない。夕食を済ませてしまおう」

「部屋に着替えに行く」と言ってオルキデアは、厨房へと駆け足で向かうアリーシャと別れて二階に向かう。
 部屋に入ろうとして、ふと廊下の突き当たりにあるアリーシャの部屋の方を向いて呟く。

「……遠いな」

 アリーシャと出会ってから、常にアリーシャはオルキデアの側に付かず離れずいた気がする。
 王都に来てからも、執務室の隣の仮眠室に寝泊まりしていた。
 仮眠室からはアリーシャの生活音が聞こえ、それが当たり前となっていた。

 けれども、この屋敷では相手に配慮して、廊下の一番端の部屋を割り当てたが、随分と遠くに感じられたのだった。

「いや、これが当たり前か」

 オルキデアは思い直すと、部屋の中に入ったのだった。
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