アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「アリーシャ、君は疲れているんだ。まだ休んだ方がいい」
「もう充分、休みました。私は本当に、貴方のことが……」
「朝までまだ時間がある。……休みなさい」
「本当に……好きなんです……。貴方のことが……」

 ポロポロと涙を流して、シャツにしがみついてきたアリーシャを促して、ベッドに連れて行く。

 アリーシャをベッドに寝かせると、オルキデアはそっと肩まで掛布を掛ける。

「どうしたら、貴方の側にいられますか?
 ずっと、側に居たいんです。もっと、オルキデア様のお役に立ちたいんです」
「……君には、俺よりももっと相応しい男が居るはずだ。俺のことは忘れて……」
「忘れられません!」

 アリーシャは掛布を捲りながら起き上がると、オルキデアに抱きついてくる。咄嗟のことにオルキデアはどうすることも出来ず、ただアリーシャを抱き留めただけだった。

「忘れられません! 貴方からもらった沢山のモノ。沢山の温かい想い。
 初めてなんです! こうして、誰かから温かい何かをもらったのは……」
「アリーシャ……」

 涙に濡れた菫色の瞳と目が合う。アリーシャの瞳の中に一番星の様な輝きを見つけて、オルキデアは息を呑む。

「……オルキデア様は、私のことが嫌いですか?」
「そんなことは……」
「嫌いならそれでいいです。
 でも、私はずっと貴方のことを想っています。貴方から貰った沢山の思い出と一緒に」

 アリーシャはそっと身体を離すと、「困らせてごめんなさい」と謝る。

「もう少し寝ます。おやすみなさい……」

 アリーシャは背を向けると、ベッドに横になる。
 頭まで掛布を被ると、そのまま寝たのだった。

 アリーシャの邪魔をしないように、オルキデアはベッドから離れると、部屋に戻って、指示書の作成に戻る。

(好きか……)

 誰かから、こうやって真っ直ぐに想いを伝えられたことはなかった。
 涙に濡れた菫色の瞳が、頭から離れそうにない。アリーシャに掴まれたシャツには、今も熱が残っているような気さえしたのだった。

 いつもなら時間も掛からずに完成する指示書が、何故かこの日は何倍もの時間が掛かった。ようやく完成したのは、夜もだいぶ更けてからであった。
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