アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「そこまでだ!」

 不意に照明がついた。
 アルフェラッツら数人の兵が、入り口を占拠していた。
 ベッドから出たオルキデアは、銃口を向けたまま兵を睨みつけた。

「捕虜への暴行は軍規に違反している。まして、怪我を負った女性への暴行は、それ以前の問題でもある」

 アリーシャに薬を盛ったという兵の顔を、オルキデアも見たことがあった。
 身分が全てであり、名ばかりの貴族であるオルキデアや、平民出身のオルキデアの親友を始めとして、平民出身の部下たちを排除しようとしていた貴族出身の者だった。

 捕虜のシュタルクヘルト軍の女性軍人に性的暴行を加えた罪で、准士官から下士官に降格処分の上、国境沿いの基地に飛ばされたと聞いていたが、まさかここの基地だとは思わなかった。

「何を言っている!? 暴行などしていない! 証拠はあるのか!?」
「証拠か。証拠ならあるぞ」

 オルキデアが片手を挙げると、入り口を固めているアルフェラッツが懐から書類を出す。
 アルフェラッツが突きつけてきた書類を一読した兵の顔が引き攣る。

「……これは?」
「アリーシャに提供した食事の分析結果と、薬の入手経路をまとめたものだ」

 食事に盛られた薬の分析には、アリーシャを任せている医師や、基地に在中している軍医らに協力してもらった。
 オルキデアやアルフェラッツらだけでは、分析に時間がかかりそうだった。
 特に今回はアリーシャの身に危険が迫っており、急を要していた。
 アリーシャの部屋を出たオルキデアが、駄目元で医師たちに事情を説明して、分析を依頼すると、彼らは二つ返事で引き受けてくれたのだった。

 医師たちは夕方には分析を終え、更に基地にある薬の在庫まで確認してくれた。
 食事に混入していたのは、軍で使用している痺れ薬と、少量の睡眠薬だった。
 軍医たちが基地の倉庫で保管している薬を確認すると、高官や将官らの尋問で使用する痺れ薬の数が合わないことを教えてくれた。

 また、アルフェラッツが調べたところによると、とある兵が実家から睡眠薬を大量に送ってもらったという話を覚えている兵がいた。
 その睡眠薬を送ってもらったという兵は、倉庫の整理を担当していた。
 また、アリーシャへの食事の提供も行っていたと、その兵の上官である下士官から教えてもらったそうだ。

「貴官がアリーシャへ食事の給仕をした日と、医師が記録していたアリーシャが食事をしなかった日も一致している。
 ここまで、証拠は揃っているが、まだ言い逃れをするつもりか?」
「くっ……!」
「拘束しろ!」

 オルキデアの言葉を合図に、アルフェラッツらが兵を拘束する。
 床に押さえつけられた兵は、「クソッ!」と吐き捨てる。

「卑しき身分が! 将官などとふざけている! 何故、この様な者ばかり評価されるのだ……!」
「卑しき者なりに、戦果を挙げたからな」

 連行されていく兵を見送ると、オルキデアは溜め息を吐く。
 身分が全てのペルフェクトでは、名ばかりの貴族であるオルキデアは生きづらい。
 どれだけ、功績を挙げて、階級が上がっても、結局は身分が無ければ、何も評価されないのだから。
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