アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「あ……ひ、人妻……!?」
「うちの妻に何か用事でも?」

 何も言えない男たちを睨みつけると、テーブルに飲み物を置くなり、アリーシャの手首を掴む手を引き離す。

「もう一度聞くが、うちの妻に何か用事でも?」
「あの……」
「近くの警察か軍を呼んでもいいんだが?」

 その言葉に男たちは、「す、すみませんでした!!」と言って、二人から逃げて行ったのだった。

 男たちを見送ると、傍らのアリーシャに「大丈夫だったか?」と尋ねる。

「あ、はい。大丈夫です。すみません……」

 肩を落とすアリーシャの隣に座ると、テーブルに置いていた飲み物をそっと差し出す。

「怖い思いをさせたな」
「そ、そんなことはありません! 買ってきていただいて、ありがとうございます……」

 怒られると思っているのだろうか。
 ビクビクしながら飲み物を受け取り、ふうふうと息を吹きかけているアリーシャから目を離すと、袋を開けながら続ける。

「お前が可愛いのは百も承知しているが、俺の目の届かないところで、他の男と話しているかもしれないと思うと、おちおち仕事にも行けないな」
「え……?」
「前から、お前がクシャースラや部下たちと楽しそうに話している姿を見ると、心がモヤモヤしていたんだ。今だって、お前が知らない男と話している姿を見て……かなり焦ったんだ」

 執務室で一緒に暮らしていた頃から、他の男と話しているアリーシャの姿を見ていると、何故か心がモヤモヤと渦巻いていた。
 セシリアと話している時はなんとも思わなかった。メイソンと話している時も。

 けれども、クシャースラやアルフェラッツら若い部下たちと話している姿を見ていると、落ち着かなくなって相手を引き離したくなった。
 今も飲み物で両手が塞がっていなかったら、男たちを力づくで引き離して、ついでに一発くらい殴っていたかもしれない。

「結婚したとはいえ、俺よりもいい男はいくらでもいるからな。そいつらの方に心が傾いてしまったらと思うと、心配にもなるさ」
「そ、そんなこと言わないで下さい! オルキデア様よりかっこいい人なんていません!」
「そうか?」
「そ、そうですよ! そんな、まるで嫉妬しているみたいなこと……」

 アリーシャの言葉に、顔を上げて振り向く。

「嫉妬しているのか? 俺は……」
「私が他の男性と話していると焦ってしまうんですよね……? 心がモヤモヤしてしまうと。それって、相手に嫉妬しているってことだと思うんです……」

「気づいていなかったんですか?」と言われて、ようやく腑に落ちる。

 知らず知らずのうちに、アリーシャと話す男たちにライバル心を抱いて、焼き餅を焼いていたのだろう。
 誰のものでもないのに、アリーシャを自分のものと思い込んでいた。
 自分だけを見て欲しい、他の男を見ないで欲しいと。

「そうか。この感情を嫉妬というんだな」
「知らなかったんですか? これまで周りと比較して、自分より出来が良い人に、怒りや不満を持ったことや、ぶつけたことはなかったんですか?」
「これまでは、周りに興味がなかったからな」
「そ、そうですか……」
「お前はあるのか?」
「私は他の姉妹からされる側だったので……。目立つ髪も女性らしい体型も。全て嫉妬の的だったので……」

 アリーシャの藤色の髪はとにかく、女性らしく艶めかしい体型は、オルキデアも毎晩、見ているので知っている。
 男性なら興奮を抑えきれないだろう。ーーオルキデアは、身体よりもアリーシャ自身を求めているが。
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