アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「ここなら滅多に波が来ないだろう。
城を作るなら、もっと波打ち際に近いところの水分を多く含んでいる土を選べ」
ズボンや手が泥だらけになるのも気にせずに、オルキデアは土の山を作る。ついで、形を整えて、城の輪郭を作っていく。
「この山は……?」
「この山をベースに城の形を整える。今は城の土台を整えているところだ」
土台が出来てくると、土を握って固めたものを山の上に乗せていき、更に城の上部に当たる土台を作っていく。
アリーシャも見様見真似で土を握って固めると、同じ様に土台を作っていった。
「結構、砂のお城作りって大変なんですね」
何度整えても崩れてしまう砂の山に、アリーシャがため息をつく。
「やはり、道具がないと難しいな」
「夏に来る時は、お城作りの道具を持って来ますね」
掌だけではなく、桜貝の様な爪の間にも砂が入っていた。
膝をついていたスカートも、泥を踏んでいたブーツも泥だらけになっていたが、それも気にすることなく、アリーシャは柔和な笑みを浮かべる。
「そうだな……」
その時、一際大きな波が、二人の元までやってきた。
アリーシャに手を貸して立ち上がると、二人の足首まで波がやってきて、今まで作っていた城もどきを壊していったのだった。
「あ……」
愛妻の呟きが消えると、二人はお互いに泥だらけの手を握り合ったまま、顔を見合わせると肩を震わせて笑い合う。
「まあ、これも浜辺での城作りの醍醐味だな」
「これが本で読んだ、砂のお城が波に攫われる。ということなんですね。
一から作り直すなんて嫌だなって思っていましたが、でもこれもお城作りならではの楽しみなんですね!」
二人は海水で手を洗うと、シートまで戻って来る。
先程貰ったオーキッド色の花のハンカチを汚す訳にはいかず、別に持ってきたハンカチで手を拭いていると、膝や手だけではなく、靴やズボン、コートの裾までもが泥で汚れていた。
それはアリーシャも同じようで、スカートやコートが汚れていたのだった。
「俺たち新婚旅行に来て、何をやっているんだろうな」
「二人揃って泥だらけですね。でも、こういうのが、私たちらしくないですか?」
「そうだな。いっそのこと、洗濯代わりに海で泳ぐか?」
アリーシャは「えっ!?」と菫色の目を見開くと、顔を赤面させる。
その顔がおかしくて、ついオルキデアは噴き出してしまう。
「冗談だ。間に受けるな」
「冗談なんですか!? 私は泳げないので、どうしようかと思いました……」
「その時は俺が手を引っ張る。安心しろ」
「海に入らないのに泳げるんですか?」
「士官学校で習った。海上戦で水中に身を投げることになった時に備えて、一通り泳ぎを教わったな」
「すごいです!」
目を輝かせて見つめてくる愛妻に、誇らしい気持ちになるが、すぐに現状を直視する。
「だが、これで借り物の車に乗るのもな……」
まさか泥だらけになるとは思わなかったので、アリーシャだけではなくオルキデアも着替えを持って来なかった。
いつもの借りた車に、二人揃って今の泥だらけの状態で乗ったら、メイソンも激昂するに違いない。
「それなら、近くの洋品店で替えの洋服を買いませんか?」
「そうだな……。探してみるか」
それを合図に、二人でシートや荷物を片付け始める。
「オルキデア様」
不意に名前を呼ばれて、畳みかけのシートを手に振り返る。
「また、夏に来ませんか?」
「ああ。今度こそ砂の城を完成させるぞ」
「はい!」
冷たい潮風が吹きつけてくる中、真夏の太陽の様な笑みが、そこに広がっていた。
城を作るなら、もっと波打ち際に近いところの水分を多く含んでいる土を選べ」
ズボンや手が泥だらけになるのも気にせずに、オルキデアは土の山を作る。ついで、形を整えて、城の輪郭を作っていく。
「この山は……?」
「この山をベースに城の形を整える。今は城の土台を整えているところだ」
土台が出来てくると、土を握って固めたものを山の上に乗せていき、更に城の上部に当たる土台を作っていく。
アリーシャも見様見真似で土を握って固めると、同じ様に土台を作っていった。
「結構、砂のお城作りって大変なんですね」
何度整えても崩れてしまう砂の山に、アリーシャがため息をつく。
「やはり、道具がないと難しいな」
「夏に来る時は、お城作りの道具を持って来ますね」
掌だけではなく、桜貝の様な爪の間にも砂が入っていた。
膝をついていたスカートも、泥を踏んでいたブーツも泥だらけになっていたが、それも気にすることなく、アリーシャは柔和な笑みを浮かべる。
「そうだな……」
その時、一際大きな波が、二人の元までやってきた。
アリーシャに手を貸して立ち上がると、二人の足首まで波がやってきて、今まで作っていた城もどきを壊していったのだった。
「あ……」
愛妻の呟きが消えると、二人はお互いに泥だらけの手を握り合ったまま、顔を見合わせると肩を震わせて笑い合う。
「まあ、これも浜辺での城作りの醍醐味だな」
「これが本で読んだ、砂のお城が波に攫われる。ということなんですね。
一から作り直すなんて嫌だなって思っていましたが、でもこれもお城作りならではの楽しみなんですね!」
二人は海水で手を洗うと、シートまで戻って来る。
先程貰ったオーキッド色の花のハンカチを汚す訳にはいかず、別に持ってきたハンカチで手を拭いていると、膝や手だけではなく、靴やズボン、コートの裾までもが泥で汚れていた。
それはアリーシャも同じようで、スカートやコートが汚れていたのだった。
「俺たち新婚旅行に来て、何をやっているんだろうな」
「二人揃って泥だらけですね。でも、こういうのが、私たちらしくないですか?」
「そうだな。いっそのこと、洗濯代わりに海で泳ぐか?」
アリーシャは「えっ!?」と菫色の目を見開くと、顔を赤面させる。
その顔がおかしくて、ついオルキデアは噴き出してしまう。
「冗談だ。間に受けるな」
「冗談なんですか!? 私は泳げないので、どうしようかと思いました……」
「その時は俺が手を引っ張る。安心しろ」
「海に入らないのに泳げるんですか?」
「士官学校で習った。海上戦で水中に身を投げることになった時に備えて、一通り泳ぎを教わったな」
「すごいです!」
目を輝かせて見つめてくる愛妻に、誇らしい気持ちになるが、すぐに現状を直視する。
「だが、これで借り物の車に乗るのもな……」
まさか泥だらけになるとは思わなかったので、アリーシャだけではなくオルキデアも着替えを持って来なかった。
いつもの借りた車に、二人揃って今の泥だらけの状態で乗ったら、メイソンも激昂するに違いない。
「それなら、近くの洋品店で替えの洋服を買いませんか?」
「そうだな……。探してみるか」
それを合図に、二人でシートや荷物を片付け始める。
「オルキデア様」
不意に名前を呼ばれて、畳みかけのシートを手に振り返る。
「また、夏に来ませんか?」
「ああ。今度こそ砂の城を完成させるぞ」
「はい!」
冷たい潮風が吹きつけてくる中、真夏の太陽の様な笑みが、そこに広がっていた。