アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
(喉が渇いたし、お水を飲もうかな)

 ティシュトリアが帰ってから、ベッドでずっと泣いていた。
 ラカイユが訪ねてきたところまでは覚えている。
 その後、寝てしまったのだろう。

 もう一度、目元を指で拭うと、仮眠室からそっと出る。
 仮眠室内にはベッドとベッド脇に積まれた本、クシャースラが持って来てくれた鞄しかないが、初日にアリーシャが整理する前は、本も乱雑、シーツと掛布はぐちゃぐちゃになって捲れたままであった。
 掛布は最初にアリーシャを部屋に案内してくれた兵が、後ほど清潔なものと交換してくれた。
 本に関しては、とりあえず似た内容ごとに分けて、部屋の隅に置く事にしたのだった。

 本は読んでいいと言われていたので、時間がある時は読んでいたが、ほとんどが軍用書や兵法書であった。
 なんとなく、オルキデア・アシャ・ラナンキュラスという人物が見えた気がした。
 アリーシャは微笑ましい気持ちになったのだった。

 仮眠室から出ると、執務室は真っ暗であった。
 もう、オルキデアは寝てしまったのだろうか?
 水が飲みたいだけなので、洗面台から水を貰えばいいか、とアリーシャが執務室内を横切った時だった。
 ソファーに座って眠っているオルキデアを見つけたのだった。
 オルキデアの周りには、大量の酒瓶が置かれていた。酒を飲んでいる内に寝てしまったのだろう。

(このまま寝たら、風邪を引いちゃう)

 上着が脱ぎ捨てられていたので、オルキデアは薄着のまま眠っていた。
 アリーシャは洗面所で水を飲むと、執務机の下に適当に重ねられていた掛布を持つと、ソファーに近づいたのだった。

 オルキデアに掛布をかけると、鼻を突くような酒の臭いがしてきた。
 一体、どれほどの量を飲んだのだろうか。
 オルキデアの周りに倒れている酒瓶の数から、相当数を飲んだと考えられるがーー。

 そう考えながら、アリーシャは転がっていた酒瓶を集めて、テーブル脇に置く。
 集める際にいくつか酒瓶のラベルを確認したが、どれも度数が高いもので驚いた。
 これだけ、度数の高い酒を一度に大量に飲んだのなら、明日はきっと二日酔いに悩まされるだろう。

 オルキデアの足元にあった酒瓶を拾っている時だった。

「んん……」

 アリーシャの頭上で、オルキデアが呻いた。

(目が覚めたのかな……)

 膝立ちになって、オルキデアの顔を覗き込む。
 額に汗が浮かんで、魘されているようにも見えた。
 アリーシャは洗面所からタオルを持って来ると、オルキデアの額をそっと拭う。

(一度、起こした方が良いよね)

 魘されている時は、一度起こした方が良いという話を聞いた事がある。
 だから、アリーシャは立ち上がって、ソファーに片膝をついて、オルキデアの肩を揺すった。

「オルキデア様」

 すると、「アリーシャ……」と、オルキデアが呟いた。

「えっ……?」

 肩を揺すっていた手を、オルキデアに掴まれた。
 そのまま身体が傾いで、アリーシャごとソファーに倒れたのだった。

「オルキデア様……」

 オルキデアごとソファーに倒れたアリーシャが身体を起こそうとすると、背中に腕が回ってきて、強く抱きしめられた。

「は、離して……!」

 抱き竦められたアリーシャは、もぞもぞと動いて、どうにかオルキデアの腕の中から抜け出そうとする。
 けれども、抱く力は弱くなるどころか、ますます強くなったのだった。

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