アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「やっ! どこを触って……!?」

 どうにかして腕の中から抜け出そうと、じたばたと足を動かす内に、スカートが捲れてしまったのだろう。
 その中にすっと手が入れられる。
 オルキデアの冷たい手が、アリーシャの太腿を撫でたのだった。

「や、やめて下さい!」

 何度も懇願するが、ひんやりとした手はアリーシャの太腿を撫でていき、やがてショーツの後ろにたどり着く。

「起きて下さい! オルキデア様!」

 ショーツの上から布地に包まれた二つの山を愛撫していたが、最初に指先が、やがて掌までも、するりとショーツの中に入ってきたのだった。

「や、やめて……」

 後ろの穴へと伸びる手を、アリーシャはどうにか後ろに手を回して、ペシッと軽く叩く。
 乾いた音が室内に響いたかと思うと、今度はその指先が前の穴へと近づいていく。

「ひやっ!?」

 オルキデアの冷たい指先が触れた途端、ピリッと軽い痛みが走った。
 今まで感じた事がない痛みだった。
 次の衝撃が来る前に、無我夢中でオルキデアの指先を手探りで探す。
 涙目になりながら、ようやく指先を見つけると、もぞもぞ動きながら全ての指を掴む。
 そうして、自らの指を絡めると、これ以上触られないように、強く握ったのだった。

 酔いが回っているからか、さほど力を入れなくても、オルキデアの手は呆気なくショーツから抜けた。

「はあああ……」

 肩で大きく息を吸う。何度か深呼吸を繰り返す内に、だんだんと痛みは引いていった。

 ようやく気持ちに余裕が出来ると、オルキデアの手の感触が自らの手に伝わってくる。
 厚い皮に覆われた大きな手であった。
 男の人の手に触れるのは、軍事医療施設以外では始めてだったが、オルキデアの手は今まで触れた手の中でも、特に大きく、固い手の様に感じた。軍人だからだろうか。
 手の大きさ、皮の厚さから、これまでいくつもの戦場を駆け抜けて来たのだと、改めて実感させられる。

 その手が動かないように、アリーシャは更に両手に力を入れて押さえ込む。
 おそらく、この手を離してしまえば、この手は更に奥へとーー秘所の奥深くに伸びるだろう。
 あの痛みの先を知りたいような、知りたくないような……知るのが怖かった。
 知ってしまったら、後には引けなくなってしまうような、気がしたのだった。

 それよりも、一番思うのは。

「い、嫌……」

 たとえ、信頼するオルキデアが相手であっても、こんな形で触れられたくなかった。
 どうせ触られるなら、捕虜として、性欲の捌け口として、犯された方がまだ良かった。
 そうすれば、下卑た顔をして、嫌がるアリーシャを犯してくる相手の横っ面を殴る事も、生涯にわたり、憎み、恨む事さえ出来る。

 けれども、酔った勢いで、それも相手の意識が朦朧なまま、犯されるのは嫌だったーーそれも「最初」を。
 だからこそ、息も絶え絶えに抵抗したのだった。

「アリーシャ……」

 名前を呼ばれて顔を上げると、オルキデアが小声で呟く。

「俺は、お前の事が……」

 やがて、オルキデアの力が緩むと、自然と絡んだ手が解ける。
 アリーシャはそっと見上げる。
 その時には、既にオルキデアは寝息を立てていたのだった。ーーアリーシャを抱きしめたまま。

「お前が、何ですか……?」

 その言葉の続きが聞きたかった。
 オルキデアはアリーシャの事をどう思っているのだろう。

(このまま、ここにいたら続きが聞けるのかな)

 ここにーーオルキデアの腕の中にいたら、その言葉の続きが聞けるだろうか。

 ーー例え、その言葉の続きが、アリーシャが望んでいなかった言葉だとしても。

 今だけは、ここに居たい。居させて欲しいと、アリーシャはそっと目を閉じたのだった。

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