未来の種
それから私は就職し、新米幼稚園教諭としてひたすら可愛い園児達に向き合った。

低用量ピルを服用し始めたことで、失神するようなことはなくなり、仕事に支障をきたすこともなかった。

でも、私の心は徐々に蝕まれていった。
ただ離れているだけじゃない。大好きな優と別れてしまったのだ…。辛くて辛くて…。どれだけ疲れて家に帰っても、眠ることが困難になっていった。
このままじゃいけない。悩んで一生懸命考えて出した結果だったはずだ。私は間違ってない。
そんな私に気づいたのは久しぶりに会った昇平だった。

就職と同時に、私は一人暮らしを始めた。過保護な父親をなんとか説得して、やっと許されたのは、聖堂館学園の正門前に建つ、こじんまりしたファミリー向けのマンション。藤田子供クリニックが1階から3階まで入っているマンションの最上階、8階だ。つまり、藤田家の持つ物件だった。

両親の監視は厳しいけれど、それでも私にとってはやっと1人になれる城だった。両親に秘密を抱えていた私には、ホッとできる空間だったのだ。ここでなら、思いっきり泣いて、落ち込んで、好きなだけ優のCDを聴いて写真を眺めていられる。

ところが、届け物をしに来てくれた昇平に、真っ赤な目を見られてしまう。
そして私はやっと、昇平の前で、今まで起こったことを全て吐き出すことが出来たのだ。









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