未来の種
ピアノを始めたのは、ピアニストの母の影響だった。
音大卒業後、パリに留学した母は、そのままパリを拠点にピアニストとして華々しい活動をしていた。しかし、俺を妊娠した事をきっかけに帰国し、父と結婚した。
そして産後、母は一時的に体調を崩す。
演奏活動に戻れない中、さらに俺が小児喘息を患っていることがわかる。身体の弱い俺のため、母はピアニストとしての活動を日本限定にし、自宅近くでピアノスクールを開いた。思いがけずこのピアノスクールが当たり、母1人では教えられない規模に膨らむ。音大時代の後輩に声をかけ、講師の数を増やしながら、ピアノスクールは、順調な経営を続けた。

喘息のため殆ど外で遊べなかった俺は、小さい頃から母のピアノスクールが遊び場だった。幼馴染の美衣子と共に、ピアノがオモチャ、という幼少期を過ごす。
誰が言い出したのか、俺は神童と呼ばれるようになり、母の期待を一身に背負ってピアノを弾く毎日が続いた。
俺がピアノをどう思っていたか…。
正直なところ中学に上がる頃にはわからなくなっていた。小さい頃は純粋に楽しかった。上手に弾けたら褒めてもらえるし。何より、美衣子と遊びの延長で弾いているのが楽しかった。

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