未来の種
「ゆう、うま〜い!
じょうずだねぇ〜!」

いつも美衣子が大きな目をキラキラさせて、次の曲をねだってきた。それに応えるのが、俺の楽しみでもあった。
俺がピアノを続けてきたのは、母からの期待と、美衣子からの賞賛があったからだ。







幼馴染の美衣子とは、母親の腹の中にいる時からの付き合いだった。身体の弱い俺は、ピアノスクールが遊び場だったし、小学校に入ってからも、よく体調を崩した。
美衣子の母親、結衣子(ゆいこ)先生は、学園の小学部で養護教諭をしていた。保健室で過ごす時間が長かった俺は、結衣子先生に大変世話になった。美衣子も心配していつも保健室を覗きに来てくれた。まあ、母親が保健室の主なので、来やすかったのもあるだろう。

中学に入る頃には、俺の小児喘息は殆ど治っていた。身長もグッと伸び、やっと美衣子の身長を超すことが出来た。
この頃から、美衣子は爆発的にモテだした。美衣子は可愛い。二重がくっきりしていて、目が大きく、中学生にしては胸が大きかった。太っているわけではないが、肉感的なのだ。はっきり言って、それは男ウケ抜群の容姿。気付けば他の学年の男子までが声をかけている。
俺は焦った。美衣子の隣にいるのは、いつも俺だったはずだ。小学校の時、既に「優は誰が好きだ?」と聞かれたら、迷わず「藤田美衣子」と答えるほどに好きだった自覚はある。
美衣子の気を引きたくて、俺はますますピアノを頑張った。俺がピアノを弾けば、美衣子はいつもそばに居てくれる。
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