すてきな天使のいる夜に〜2nd Sstory〜
ーside 大翔ー



心の中にある目に見えない傷がどれくらいのものなのか。



病気の治療はできたとしても、彼女の心を癒すことは難しい。



人が自分の心の内を証してくれるまでに、相当の時間と信頼関係が必要だ。



心を傷つけられた分、彼女の心と向き合うには相当な気力がいる。



それでも、俺は彼女から背を向けたくない。



大切な人を守り、彼女の明るい笑顔をまた見たい。



父親と再会してからは、沙奈は笑わなくなってしまった。




偽りの笑顔を浮かべるだけで心からの笑顔の姿は見受けられなくなってしまった。



その事を、紫苑に相談したけど紫苑も同じように感じていて、出会ったばかりの頃に戻っているかもしれないと話していた。



彼女の背を見失わないように、沙奈の跡を追った。



塀を乗り越え、足を外に投げ出すように沙奈は座っていた。




「沙奈!」




俺の声に、沙奈は振り向かなかった。



「沙奈、こっちにおいで。」



下手に刺激をしてしまうと、いつ身を投げ出してしまうか分からない。



「放っておいてよ!


これ以上…


私に優しくしないでって言ったでしょう!」




「沙奈。」



「期待させないで!



あなたも紫苑や翔太も私にとってはただの他人でしかない。


血の繋がりのある父親でさえも、私と向き合おうとしなかった。」




「沙奈。沙奈の父親は…」




「あんな人でも、1度だけ私に優しくしてくれた事があったの。


1度だけ…。」




寂しそうに俯く沙奈。



あまりにも切ない表情から今すぐに身を投げ出す覚悟があることが見えて、気づけば沙奈を優しく抱きしめ塀から屋上へ沙奈を戻していた。




少し大きな声を出して、疲れ果てていたのか俺が抱え上げた時に沙奈は抵抗する力が残っていなかった。




「余計なことしないでよ。


私は、あの日の夜に死ぬはずだったの。


何も辛くなかったあの頃に死んでいたら、今こんなに苦しまずに済んだのに。


どうして、私。


誰かの温もりに触れちゃったんだろう…。」



泣きながら俺に感情をぶつける沙奈。



沙奈のその言葉に、きっと捨てられるという恐怖を感じている事が分かった。



その恐怖があるから、今以上に俺や紫苑、翔太と関わることが余計に怖いんだろう。



父親にほんの少し期待していた分、裏切られたという感情が沙奈の中で不信感でいっぱいになってしまったのだろう。



あの父親だけでなく、俺たちに対しても。




唯一の血縁関係である父親だったから尚更だ。



でも。



はっきりと沙奈の気持ちが分かったような気がした。



それに、これだけ感情を表に出してくれたことに安心ができた。



人に裏切られた時、自分が壊れてしまうかもしれないという不安や恐怖があるのかもしれない。



それなら、他人との一線を引いて自分の中に誰も入って来れないようにしていたのかもしれない。



俺達と関わる時も、きっと怖かっただろうな。
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