すてきな天使のいる夜に〜2nd Sstory〜



「沙奈は、退院してから5年もの間1度も父親は病院へ連れて行こうとはしなかったそうです。


中々連れていくことがなかったので、俺の父親が沙奈を連れ出し病院へ向かいました。


だけど、沙奈は病院を嫌がったんです。」




「どうして…」



「これは、憶測に過ぎませんが…



沙奈にとって病院は、母親を思い出す所だったからだと思うんです。



沙奈は、この病院で産まれ母親の写真の中にもこの病院が写っています。


成長して行くに連れ、赤子の記憶は薄れていくとは思いますが、きっと沙奈は母親の温もりを覚えているんだと思います。


抗癌剤治療は過酷のものです。


この大切な母親との病院の記憶が、辛いものに塗り替えられることが嫌だったんだと思います。


病院が怖いと言うのは、辛い治療をされることに加えて、唯一の母親との記憶が塗り替えられてしまうからだと思うんです。」




沙奈の成長が阻害されていたのは、あの父親からの育児放棄だけではなかったのか。



過去に白血病も患っていたなんて…



沙奈の病気を告げた時、余計に辛かっただろうな…



病院という場所が、再び暗いものへ染まっていくことも…



「俺、何も分かっていなかった…」



「沙奈は、母親に大切にされていたんだな。」



母親が命を落とさなければ、沙奈は幸せに暮らしていたのかもしれないな。




今と違う人生を歩めていたのかもしれない。



「大切にされていたと思います。


ですが、沙奈は1度も母親に抱かれることはありませんでした。


母親の残していった言葉や思いは、俺が沙奈へ繋いだだけなので…。


そのせいで、余計に辛い思いをさせてしまったかと思う時期もありましたが、家族の記憶が辛い思い出だけになってしまうと思うとその方が耐えられないと思いました…。」




「ありがとう、冨山さん。


沙奈のこと少し詳しく知ることができて嬉しいよ。


冨山さんも辛かっただろうに…


沙奈の支えになってくれて本当にありがとう。」




未だに沙奈の闇は消えずにいる。



時間が癒してくれるという言葉があるけど、沙奈に対してはそうはいかないと思う。



時間が経つに連れて、心に負った深い傷は少しずつ裂かれているような気がしていた。



あの父親が、沙奈の前に現れてから少しずつ沙奈が壊れていくのが目に見えて分かる。




表面上は笑顔でいるけど、瞳の奥の悲しみは決して消えることもない。



怒りの感情を通り越していることを…



偽りの笑顔ということを…
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