祈る男と渇いた女
 渇いた女の目が涙で潤みました。
 最後にとても心地よい温かさを感じました。

 愛しくて切なくて幸せな気持ち。
 
 渇いた女は祈る男の愛を感じました。
 
 あの方もわたしを愛してくださっていた。
 
 渇いた女の目から涙が溢れ落ちました。
 遠く離れていても祈る男の祈りは彼女に届いていたのです。 
 生死の境を彷徨いながら女は夢の中で神様に祈りました。
 
 神様どうか彼にもう一度だけ会わせて下さい。
 
 すると、心地よい温かさと安らぎに包まれました。
 微睡みのなかで母親の子守歌が聞こえました。
 母親が優しい眼差しで彼女を見つめているのです。
 渇いた女は、眠りにおちました。
 今度はひまわり畑の中で父親に肩車をしてもらっていました。
 渇いた女はとても大きな安心感に浸りました。

 あたしは愛されている。

 渇いた女は自分を愛し皆の愛を受け取りました。
 その瞬間、
「ここは……」
 渇いた女は目を開けました。
「手術が成功したのよ」
 シスターが目に涙を浮かべていました。

 一年後、渇いた女の健康は殆ど回復し、麻痺していた左足はすり足ですが、何とか支えなしで歩けるようになりました。 
 女は神父様やシスターをはじめ、お世話になった人たちにお礼を言うと、町を去り、祈る男がいる町へ向かったのでした。
 渇いた女の新しい人生が始まったのです。
 町に着いた渇いた女は、真っ先に祈る男の店に向かいました。
 お店が見えてくると、立ち止まり、中の様子を窺いました。
 祈る男の姿がすぐに目に飛び込んできました。
 女の胸はたちまち熱くなり、大粒の涙がこぼれ落ちました。
 涙は渇いた女にとって、初めて自分に流す愛の涙でした。
 長い長い悲しみと苦しみの果てに、渇いた心が愛で一杯に満たされたのです。
 彼が振り向き微笑みました。
 彼女も微笑みました。
 女は左足を少し擦りながら、ゆっくりとお店に向かって歩き出しました。
                                 (完)
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