短編集(仮)

「私の家? いいけど、最近ずっとじゃない? どうしたの?」

 「……天音ん家は、居心地が良いから」と、あたしは言う。
 本当は居心地が良いのもあるけれど、お母さんが今日は帰ってくるのが遅いのと、天音の兄——葵(あおい)くんにちょっとでいいから会いたいだけなのだけど。

「そっか。なんか嬉しいな…。へへ」

 純粋で可愛い天音は、疑うことを知らない。
 だからこそ余計、無邪気に笑ってくれる天音への罪悪感と申し訳なさが、心の中を包み込む。

「ちょっと〜、可愛すぎじゃない? 天音〜。あたしも行きたいけど、部活がなぁ…。てゆうかさぁ、あたしはあたしは? あたしん家はそれほど居心地良いと思えないってこと?」

「なずなん家は行ったことないから。それに、あんた、そういうところがうざいのよ」

「なっ!」

「イケメン好きで男好きでミーハー女子」

「いっ、言い過ぎ! グサって刺さったよ! 痛いよ!? あたし死ぬよ!?」

 胸を押さえてなずなが言う。

 ノリに乗っかってグーで軽くパンチしてあげると、なずなが控えめに「ぐはぁっ」と言って「チーン」と、倒れるフリをした。

 そしてまた起き上がって、「花のせいであたし死んじゃったじゃん」とか言い出した。
 …なずなのバカさ加減には、たまに呆れてしまう。

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