短編集(仮)
 *

「お邪魔しまーす」

「花…!? い、いらっしゃい。早かったね。まだ部屋とか片付けてないのに…。それに、私今から花に電話しようと思ってたんだ。……ごめん、今日、無理そうかもって」

「ええ、来ちゃったよ」

「ごめんね。…あ、今お母さんと葵にぃいるから、それでもいいならここにいてもいいよ。……私、服選んできたくて」

「それって、モサ男とのデートの服?」

「……う、うん。なんか、金曜日限定のっていう服が、可愛くて…」

 …そう言ってる天音が1番可愛いんですけど。

「じゃあ、いくら遅くなってもいいから、あたし、部屋で待たしてもらってもいーい?」

「あっ、いいよ。今日は? 泊まる?」

「…あのさぁ、毎回それ訊くよね。泊まったことないけどさ。…でも今日は泊まっていってもいい? あたしのお母さん、今日遅くなるらしくて。「泊まってくるなら心配いらないわね」って」

「泊まるんだ…! …ふふ、私、友達とお泊まり初めて!」

 天音が嬉しそうに、そして可愛らしく笑う。

 あたしが男なら、何年も前からコロッと落ちてるはずだ。

 ……そしてモサ男に恋する天音を見て嫉妬する、ただの友達…。
 …。あたし、男に生まれてこなくて良かった!

「葵くんは、今日もいないんでしょ?」

 葵くんは、天音の4歳年上。
 社会人だから、今は仕事に出ているはず。…完璧。家の中では葵くんには会いたくないから。だって、家で会ったら、必然的に天音もいるわけで、つまりニブちんな日名瀬家も、2人いたらバレる可能性が高まるのだ。

「いるよ」

「……えっ」

「いるよ、葵にぃ。平気でしょ? 花、葵にぃのこと良い人って言ってたし。…だめ?」

 そんな顔で言われたら、女のあたしでも断れるわけがない。

「…だめっていうか」

「?」
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