短編集(仮)

 首を傾げる天音。

 …まずい。
 なんとか誤魔化したくて、あたしは後ろにやっていた手を前に伸ばす。

「これ、手土産っていうか。お母さんに持って行けって」

「わぁ、可愛い袋! ママに渡してくるね! 花は上がって。あっ、まだなんも準備してない。私の部屋行ってて。まだ片付けてないから、汚いかもだけど幻滅しないでね? ジュースは、花が好きなブドウジュースでいいよね?」

「うん」

 天音、焦りすぎて早口になってるし…。

「安心してよ天音。普段の天音の部屋が汚かったら、あたしの部屋なんてゴミ屋敷だから」

 天音は、聞こえてないらしく慌ただしくしている。
 天音ママの、「花ちゃん来たの?」という奥の部屋からの声にも気づかず、そのままバタバタ音を立てて通り過ぎてしまっているくらいだ。それにしても相変わらず、天音ママの声は安心する。



「天音? 何暴れてんの〜?」

 その声に、ドキリとする。

 嘘、いる。

 本当にいる。葵くんが。

 バクバクバクバクバクバク…どんどん鼓動が速くなる。
 いや、うるさいから! とあたしは自分の心臓に文句を言う。
 オーバーヒート寸前のあたしの頭は、どうやらうまく機能してくれないらしい。…脳が、機能してくれないらしい。
 さっきからあたしの頭は、どうしようどうしようどうしよう…。それしか考えていない。やばい。

「何暴れてんのってば」
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