短編集(仮)

 トン、トン、トン…と音がする。
 葵くんが2階から降りてきているんだろう。

「なーに暴れてんのってば〜天音!」

 最後の段をだんっ、と降りた時、振り向こうとした葵くんの目と、あたしの目が合った。
 …つまり、いつのまにかあたしは葵くんを凝視していたということだ。

「へっ!? 葵にぃ、私暴れてなんかないし…いたっ!」

 天音の声がする。
 聞こえはするけど、ぼんやりとしか聞こえない。周りの音が遠のいていっている。その証拠に、天音が頭をゴンッとぶつけた音は聞こえなかった。

「あ、葵くん…。こんにちは」

「お〜、こんにちは。なるほどね、そういうことか。だから暴れてんの。天音の友達が来てんの。花ちゃん、お久しぶり」

「おおおお、おひっさしぶり、です…っ。こ、この度は、…えっと、こんにちは…」

 テンパって自分でも何を言っているのかわからなくなってくる。

 こんなんだったらあたしの気持ちもバレるんじゃないかと一瞬思ったけど、あの天音と血が繋がっているんだから大丈夫だ。
 なんてったって、前に誰かに告白されていた時、鈍すぎて、『それを誰に伝えればいいの? なずな? 花?』なんて返していたくらいだ。恐らく、そんなことはあたしが知らないだけでもっとたくさんあるんだろうけど。


 ってかこんなん考えてる場合じゃなくて!

 ふっと吹き出して、葵くんが笑う。「相変わらずだな…」なんて呟いて。
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