短編集(仮)
何が相変わらずなのかはわからないけど、とにかく、何か話を繋げないとダメなことは確かだ。
…話を、繋げないと。
「……」
何か、話を。
「………」
…話を。
「…そういえば、今日はどうして家に?」
そう尋ねる。声は、上ずっていなかっただろうか。
「ああ、今日は仕事ないんだ。いいでしょ〜」
——葵くんは、年上の割に子供っぽいところがある。
「葵くん、サボってきたんですか?」
そう聞くと、葵くんはへへっと笑う。
「それが、違うんだよね〜。なぜか急になくなったらしくて。ってことでお前ら学生や仕事人が働いてる間、俺は起きてからずっとゲーム三昧でさ」
…ゲーム。
葵くんは、やっぱり相変わらず。
「んで、めっちゃ暇なんだよね。うん、ぶっちゃけ、チョー暇。天音は今からどっか行くみたいだし。ゲームは1日1時間半って決めてるし」
「1時間半…」
「30分くらいいいだろ、大人の特権だよ」
…違くて。
葵くんらしいなって。
普通、大人になったらそういうの守らないんじゃない?
…って、あたしの常識がズレてるのかもしれないけど。
「今日も結構暇だったけど、溜めてた本がたくさんあったから良かった。でも全部読み切っちゃったもんなぁ…。あれ、明日とか明後日とか、大分暇じゃん」
後半、独り言みたいになっていたけど、あたしは全部聞いてた。
《好きな人と1日デートする。口実など全て自由。※ただし、いない場合は相手を自由に決めて良し。》
…良いだろうか。利用しても。
一日だけなら、良いだろうか。
あたしにもチャンスはあるだろうか。
『花〜、今日は遅くなるけど平気?』
『あー…、じゃあ、あたし天音ん家に泊まらしてもらおうかな』
心配させたくなくて、つい、お母さんにそう言っちゃったけど。
今思えば、そんなのは初めてのことだ。
『葵くんは、今日もいないんでしょ?』
『いるよ』
祝日でも、休みの日でもないのに。
どうして葵くんがいるのか。
これは、神さまがあたしにくれたチャンスに違いない。
——一日だけなら。
「…あの、葵くん」
「ん?」
「…明日一日、あたしにくれないかな」
——それは、恋愛初心者のあたしが出した、精一杯の勇気。
そして、一歩。