短編集(仮)
——懐かしい。
あたしと天音、あの泊まりのあとくらいから急激に仲良くなって、あたしも天音って呼ぶようになったんだっけ。
ついでに、葵くんとも少し遊んだから、呼び方も葵さんから葵くんになって。
人懐こい笑み。
あの笑みは、いつから安心感を覚えるようになったんだっけ。
デートなんて初めて。
…もちろん、葵くんはそんなつもりないんだろうけど。
あたしは寝転んで、天井を見上げる。
天音の部屋はいつも綺麗で、いい匂いがする。そんな部屋で自分の部屋のようにくつろいでいるあたしはおかしいけれど。
寝転ぶと、天音の部屋の綺麗さがよくわかる。
可愛い鏡が目に入る。
少し身体を起こしてよく見てみると、そこには気持ち悪い顔をしたあたしがいた。
…なに、にやけてんの。
馬鹿なの、あたし?
ぺちぺちと頬を叩く。
全然表情が変わってくれないから、ばちん、と叩く。めちゃくちゃ痛い。…のに、それでもニヤニヤしているあたしは変だ。
どれくらいそうしていたのだろう。
「ただいま葵にぃ!」
下から大きな声がする。
しばらくして、階段を上ってくる足音。
「ただいま、花!」
あたしに挨拶をする。
急いで手を洗ったのか、天音にしては珍しく指先が少しだけ濡れている。…少しだけ。これくらいならいつものあたしくらい。
「…おかえりぃ、天音…」
「…花、どうしたの?」
本気で心配された。