短編集(仮)

 *

 ——デートで浮足立つあたしは、おかしいのだろうか。

 今日、あたしは7時に起きて、休みの日なのにそのあたしより早く起きた天音に『泊めてくれてありがとう』と言って、天音の家を飛び出した。

 自分の家に帰ってから、持ってる中で1番可愛い服なんて持ってきてしまう。

 …といっても、あたしは女子力なんて皆無だから、そんなに可愛くはないと思う。
 つまり服がダサい可能性もあるのだ。なんて情けない。これなら明日じゃなくて明後日にすればよかった。

 後悔しても遅いから、「日名瀬」という文字の上に小さく花が乗っている家の前で待ってみる。

 それから、後悔する。

 ……待ち合わせ場所も、時間も決めてないとか………バカかあたしは!?

 後悔先に立たずとはこのこと。

 ガチャ、と音がした。

「待った!? ごめん俺、起きるの遅くて。時間もわかんなかったし」

 慌てた様子で出てくる葵くん。

 …起きるの遅いって言ってるけど、今、7時半だよ? 休みの日なのにそんなに早く起きるの、この兄妹は。

 心の中でツッコミを入れる。

「待ってなんてない。それに待ってたとしても、時間も場所も指定しなかったあたしが悪い」

 そう言うと、葵くんが「確かに」と笑う。

 そうなんだけど、やっぱりムカつく。

「否定、してよ」

 「ごめんごめん。花って天音と一緒で、やっぱからかうと面白い反応するから」とおかしそうに、まだ笑っている葵くん。

「…葵くん、あたしのこと面白がってるよね」

「他に何があるの?」

 真顔で返答してくる葵くん。
 天然って、怖い…。

 というかデートの意味わかってんのかな。…わかっててもこれは違うか。偽りのデートだから。

 早くも変な不満を覚えそうなあたしを喝破する。

 …なんだろ、あたし、さっそく罪悪感が……。
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