短編集(仮)
…てか、葵くん彼女いるのかな。
最初に聞いておけば良かった。そしたら誘わなかったのに…。
「…葵くんって」
「うん?」
「わっ」
気づいたらすぐ隣に葵くんが。
…え、何この距離感。
「ち、近く…ない?」
「え、だって、デートだし。罰ゲームなんでしょ?」
…なんですって?
「え、ごめん。そんな嫌がると思わなかった」
「いやっ、違っ…。ちょっと驚いただけであって」
「…驚いた?」
「……」
黙り込むと、葵くんがまたおかしそうに笑う。
「ごめんごめん、『驚いた』んだ? 思ったより男に免疫ないの?」
「…免疫って」
病気じゃ何かじゃないんだから、と心の中で突っ込む。
絶対、楽しんでる。からかってる。面白がってる。ずるい、この人。
——あたしは、こんなに。
「………………葵くんて」
一旦、言葉を切る。
「……」
「ん?」
葵くんが、続きを促す。
「…結構、性格悪いよね」
一言。
あたしはそれだけ言って、先に歩き始める。
「…うん? おい? ちょっ、言い逃げかよ! しかも聞こえなかったし!」
…聞こえなかったんかい。
「てか、どこ行く? アテがないなら最近話題の[自分が尊すぎて死ぬ]見に行かない?」
「…それ、ラブコメじゃ——」
「すれ違い方が面白すぎんだって! 李人(りひと)が言ってた! あいつ恋愛系苦手だけど、これはギャグしかないし、最終的に付き合う時もほぼ、なんでそれで付き合うんだよってなるって」
…あたし…。
「あたし、苦手なんだけど。ラブもコメも」
「ラブ…愛。コメ…米」
「…どうしたの?」
「いや、急に」
「コメ、嫌いなんだけど」
「そっか、この会話、コメ…コメディか」
半笑いの葵くん。
「まあ、いいんだけどね?」
そう言って、あたしは葵くんに向き直る。…正確には、葵くんの方に。
そっちに映画館があるからね。
「何か飲む?」
「まだ着いてないけど。気ぃ早すぎじゃない?」
「…そ?」
「…」
…聞いて、みようかな。
今度こそ。
「葵くんって、かの——」
プルル、と音が鳴った。
「——じょいるの?」
葵くんのスマホだろう。
「ちょっと、ごめん」