短編集(仮)
葵くんが断りを入れてからスマホを取り出す。
「…なんで? 気になる?」
「うん、すごく」
「いないよ。別に…あ、天音からだ。電話みたい。出てもいい?」
「いいよ」
許可を出すと、「もしもし」と葵くんがさっそく電話を始める。
その間、あたしも葵くんも、映画館へと歩く。
「はぁ? 花は俺と一緒だけど。…うん、そう。だからそうだってば」
「……ん…な……」
スマホから少しずつ声が聞こえるけど、何を言われているかわからないから耳をそばたてたりしない。
「え? 映画だけど。…そう、[自分が尊すぎて死ぬ]だけど。……まあ、花がいいって言ったらな」
そう言いながら、葵くんがあたしを見る。
葵くんの方が少し前を歩いていたから、あたしと葵くんの目が、合う。
…目が、合った。
思わず反射的に身体ごと逸らして、後ろ歩きなんて始めちゃうあたし。
「…? 何遊んでんの」
「なっ、なんでもない…っ、遊びじゃないし。ってか、こういう遊びがあるの!」
「やっぱ遊びじゃん」
ぷっと、葵くんが吹き出す。
一通り笑ったあと、葵くんが言う。
「花、天音が一緒に映画館行きたいって。だめか?」
「…いいけど」
と返事をしてから、あたしははっとする。
———バレる、かも。
あたしが葵くんを好きなこと。
天音の兄を好きなこと。
「おっけー」
「…やっぱ、だめ」
葵くんの声と重なって、どっちも聞き取れなくなる。
強いて聞こえたとするならば、最後のあたしの『め』という部分くらい。
「ん? ごめん、なんか言った?」
「言ったけど、あの、あま——」
「花っ! よかった、すぐ近くで」
天音の嬉しそうな声。
——葵くんに、よく似た声。
「あま——」
にっこりと、嬉しそうに笑う天音。
あたしは、何も言えなくなる。
「…葵くん、帰ったら」
つい口をついて出た。
——バレたくない。絶対、バレたくない。
バレたら、友だちじゃなくなる。
天音といられなくなる。
葵くんとも、会えなくなる。
「……え?」
葵くんの動揺したような声。
「あたし、天音と2人で観る……」