短編集(仮)

 ぎゅ、と来たばかりの天音の腕を掴む。

 葵くんがしばらくあたしと天音を、その高い背の上から見つめてから「ふーん」と一言。

「天音とデート、楽しんでね」

「へ」

 ふざけたような、嘲笑うような。

 そんな笑顔だった。

「花?」

 天音の不思議そうな顔。

「天音、あたし、葵くん嫌い」

 短く、天音にだけ聞こえるように言って。

「行こう、天音」

 手を引いて、連れて行く。

 去り際、葵くんのすぐ隣を通った時、言われる。

「…俺も花のこと嫌いだから」

 聞こえていたらしい。
 天音に、気持ちがバレないように言った言葉が。

 そりゃあ、そうだ。

 天音が来たら、
 急に『帰ったら』なんて言って。

 『あたし、天音と2人で観る』なんて。

 急に嫌いとか言い出して。

 …誘ったの、あたしの方なのに。

 ……あたし。

 何やってんだろう——。


< 57 / 61 >

この作品をシェア

pagetop