短編集(仮)
ぎゅ、と来たばかりの天音の腕を掴む。
葵くんがしばらくあたしと天音を、その高い背の上から見つめてから「ふーん」と一言。
「天音とデート、楽しんでね」
「へ」
ふざけたような、嘲笑うような。
そんな笑顔だった。
「花?」
天音の不思議そうな顔。
「天音、あたし、葵くん嫌い」
短く、天音にだけ聞こえるように言って。
「行こう、天音」
手を引いて、連れて行く。
去り際、葵くんのすぐ隣を通った時、言われる。
「…俺も花のこと嫌いだから」
聞こえていたらしい。
天音に、気持ちがバレないように言った言葉が。
そりゃあ、そうだ。
天音が来たら、
急に『帰ったら』なんて言って。
『あたし、天音と2人で観る』なんて。
急に嫌いとか言い出して。
…誘ったの、あたしの方なのに。
……あたし。
何やってんだろう——。