短編集(仮)

 *

「嫌いなの? 葵にぃのこと」

「…うん」

「なんで嫌い? 何かされた?」

「何も」

「じゃあ、なんで…」

 もはや、尋問。

「…嫌い」

 ボタ、とあたしの目から涙がこぼれた。

 それは、ピンポン玉くらいの大きさで、思わず何天音の前で泣いちゃってるんだろう、なんて自嘲の笑みがこぼれる。

 …あたし、何してんだろ。

 ただの馬鹿だ、あたし。



 あたしはただ、
 葵くんと一緒に
 デートがしたくて。
 …罰ゲームを利用して
 嘘、ついて。

 あたしはただ、
 この兄妹に
 気持ちがバレたくなくて。
 『嫌い』なんて言って
 逃げて。
 嘘ついて。

 おまけに今だって。

 結果、天音にまで心配かけちゃって、しかも葵くんが悪者になってる。…いや、『なってる』じゃない。『させてる』んだ。あたしが。



 …あたしは。

「こんな自分…嫌いだよ……」

 嘘ついて誘って。

 勝手に迷惑かけて。

 勝手に逃げ出して。

 勝手に泣いて。

 勝手に傷ついて。

 勝手に心配かけて。



 おまけにまた、あたしは泣き出した。

 嘘をつくなら、最後まで突き通せればいいのに。

 どうせ嘘なら、そう、嘘なら——。

「…天音。好き…なの」

「えっと…誰が?」

「葵くんが」

「……え?」

「好きなの、あたし。葵くんが」

 馬鹿だよ、あたし。

 最初から嘘つかなければ良かったのに。

 最初から、逃げないでちゃんと誘えば良かったのに。

「あたしは、葵くんが好き。もう、逃げない」

 だっ、と葵くんを追いかける。

 考えてみれば、あたしは逃げてるだけだった。

 ただ逃げてるだけだった。
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