短編集(仮)

 あたしはずるい。

 何も本当のことを言ってない。

 ——あたしはずるい。告白することなく、デートを取り付けてしまったんだから。

 そんな、前に思ったことを思い出す。

 あたしバカだ。

 やっぱりどうしようもないバカだ。

 デート?

 告白?

 ずるい?

 ずるいと思っているのなら、ちゃんと言わなきゃいけなかったのに。

 ——…だって、しょうがないじゃんか。葵くんはあたしの友達のお兄さんなんだから。バレたらやばいの度合いは、他の人よりも高いんだから。

 あたしはそう自分に言い訳をした。

 でもそれって、無理矢理に理由くっつけて逃げてただけなんじゃないの? 違うって言い切れる?

 目立つ彼を見つけるのは、簡単だった。

「……っ、…っ、はっ…葵くん!」

 服の袖を掴む。

 こういう時、長袖って便利だ。

「あたし、葵くんが好きだよ」

「…は?」

 何言ってんの、とでも言うような顔で見つめられる。

「熱でもあん——」

「本当なの!」

 あたしは…ずっと、ずっと。

「……でもお前、嫌いって——」

「バレたくなかったの。言ったら、…天音とも、葵くんとも……話せなくなると思って」

 でも、そうしているうちに、自分が惨めになってきて。

 だんだん自分のこと嫌いになってきて。

「…もう、嫌になってきて」

「……好きでいるのが? 好きでいるのが嫌になったから、フラれてしまえとでも思ったってこと?」

 葵くんが言う。

「違う。あたしは、…ただ、嘘をついているのが、嘘をついている自分が、嫌になっただけ」

 ——だから、どうか、聞いて。

「もう一回言うけど、あたし葵くんが好き」

 届かなくてもいいから。

 玉砕することになってもいいから。

 ——もう、嘘なんてついていたくないから。

「……」

 葵くんは目を大きく見開いて、それから一回瞬きして。

 深呼吸してから言った。

「えっと、夢かな。これは」

 …さすが、天音と血が繋がっているだけあった。
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