冷たい海
 まだ紅色の残る空に、薄っすらと満月がその姿を現した。海蛍の洞窟からはぼんやりと白く輝くその満月が見えて。その輝きは瞬間が経過する度にくっきりとしたものに変化した。そして僕の箏は、あまりにも違和感なくその景色に溶け込んだ。
 美夏の背と膝を抱いてその場に立つ僕もまたその景色に薄まってゆき、彼女との夢のような記憶がまるで走馬燈のように頭の中に浮かんでは消えた。
 『お姫様抱っこ』を喜んだ可愛らしい美夏。クラスのカップルが訪れたこの場に僕と共に来たがった愛おしい美夏。そして……消えてしまう自分の運命を受け入れていた、強く美しく、それゆえ儚い美夏。
 僕はもう一度、彼女の足にならなければならない。そう。僕の箏奏で魂を呼び戻し、彼女に永遠の生を与えることで。
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