王子と社長と元彼に迫られています!
───え!?

そっくりさん?と思って見てみるが、着ているのも優悟が毎年よく着ているダークグレーのダッフルコート───フードの中の柄がブラックウォッチとかいう、暗めの青地に緑と黒の線のタータンチェックのもの───だ。先日ゲームセンターに行った時も着ていた。

『このラップサンド、何入ってるんすか?』

『この丼、肉てんこもりでたまらないっすね~。』

『このポテト、ソースが3種類ついてくるとかアツい!どれが一番美味いっすか?』

動画クリエイター達は二人が食べているものを見て盛り上がっていて、女性が彼らの質問に優しく答えたり、丁寧にコメントを返したりしている。

前髪のないつやつやした黒髪セミディの清潔感溢れる女性だ。笑う時も口に手を当てて『うふふ。』と上品に笑っている。

───優悟ってきょうだいはお兄さんしかいないし、友達・・・かな?女友達の話って聞いたことなかったけど・・・それか会社の人とか・・・?

そう思っているとクリエイターの一人が興味津々な様子で質問する。

『ちなみにお二人はお付き合いされて長いんすか?』

『お前ーっ、そこかよ。すみませんね、こいつ彼女いない歴=年齢だから。』

『うるせぇ!俺の彼女は食い物全般だから。毎日ラブラブよ、朝から晩まで食い尽くしちゃってるから・・・で、どうなんすか?』

性懲りもなく再び訊ねたクリエイターに彼女は嬉しそうににっこりと笑って『ふふふ、内緒です。』と返した。語尾にハートマークが見えたようだった。

『おーっ!これはがっつり深いお付き合いなんじゃね?美男美女でお似合いだし。両親にお互いを紹介しちゃってる系だよ、おい。くっそうらやまし~!』

盛り上がる彼を他の二人が笑いながら『お前キモいって!』『飯だけ食ってろ!』などと再びたしなめ、『すんません、ありがとうございました!』と別のテーブルに移っていった。

カメラが遠ざかりながら二人を映す。彼女は笑顔で『いいえ~。』と言いながら彼らを見送り、優悟は特に否定することもなく飄々(ひょうひょう)とした様子でいたのだった。
< 115 / 203 >

この作品をシェア

pagetop