王子と社長と元彼に迫られています!
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展示場の近くにある海浜公園に来ていた。砂浜に立ち二人とも無言で海を見つめている。夕焼けが綺麗だ。

「・・・なんかスーツでコート着て海にいると、刑事ドラマみたいじゃない?なんちゃらサスペンス、みたいな。」

沈黙に不安になって言ってみると優悟は『そうだな。』と言ってこちらを向いた。オレンジ色の夕日が映る瞳を見て、言わなきゃ、という想いに衝き動かされる。

「あのね、うまく言えるかわかんないんだけど・・・。」

「ん?」

ザザーッと波の音がする。

「私が別れたい、って言ったんだけど・・・私やっぱり、優悟のことが好き。優悟じゃないと駄目だってわかった。私もやり直したいの。ごめんね・・・馬鹿だよね。ひどいよね。ずるいよね。」

「!?ほんとに・・・?」

優悟は目を見開いて体ごとこちらを向くと私に近づいてきた。完全に恋人同士の距離だ。

「でも、優悟に言わなきゃいけないことあるの。」

「何?」

見上げると優悟の瞳が揺れている。目を逸らして『ううん、やっぱりなんでもない。』なんて逃げてしまってこのまま彼と何事もなかったように恋人に戻ればきっと楽だろう。夕暮れの海なんて絶好のロマンティックシチュエーションだ。

でも友野さんと優悟は私が結婚式やお台場での彼らの姿を見ていることを知らないのに、黙っていたらわからないのに、二人の間にあったことをきちんと話してくれた。私は優悟とは既に別れた元カノなのに、だ。

彼らの誠実さに応えなくてはいけない、というよりこれはもっと早く話さなくてはならなかったことだ。事実を話すことで優悟の気持ちが変わって、元に戻ることは出来ないかもしれない。もしかしたら彼の目を見つめるのはこれが最後になるかもしれない。そう思うと自然と力が入って両手を握りしめてしまう。

「千咲?・・・震えてる。無理して言わなくてもいいから。」

優悟が肩に手を置いてそんな言葉をかけてくれる。その優しさが逆に私の背中を押した。
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