王子と社長と元彼に迫られています!
「優悟、ごめんなさい。私、嘘ついてた。」

「嘘?」

「優悟が見てた私の夢の話、内容を全部聞いたわけじゃないけど、今まで聞いたのは全部、現実に、本当に、起こったことなの。」

「えっ・・・!?」

「紬くんも暁さんも実在していて、年明けから会ってるの。紬くんと毎朝一緒に通勤したりライブに行ったり、暁さんと食事や出張に行ったり、彼らの家にもお邪魔したし二人ともうちに来たことがある。ハグやキスも何度もしたし、一緒のベッドで寝たりもしたの。」

一気に言った。優悟は『え』の形の口のまま固まってしまっている。

「こんな私、がっかりするよね。軽い女だよね。今まで言わないでいてごめんね。」


優悟はしばらくそのままだったが、私の肩から手を下ろすと俯いて言った。

「・・・ごめん。俺、やっぱり会社戻る。」

「・・・うん。」

革靴で砂浜を歩いていく優悟の背中を見送る。もう会うことはないのかもしれない。距離が開くのに比例して心がどんどん強く締め付けられる。

優悟の姿が見えなくなるまで私は浜辺に建てられた石像のように動かなかった。1月の海辺の風は冷たくて、いつもなら聞くとワクワクしたり癒されたりするはずの波の音もなんだか寂しいバラードのように耳に響いていた。

───さようなら、優悟。ごめんね、ありがとう。

心の中でそう想った途端、涙が頬を伝って、慌てて海の方を向いた。

───そういえば、涙も海も塩水なんだよね。

そんな当たり前のことを思いながら一人静かに泣いた。砂浜に黒い点ができる。満潮になったらこの私の涙も海水の一部になってどこか遠くに行けるのかな、なんて思いながら、太陽が水平線の向こうに沈むまでその場で涙を流し続けた。
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