王子と社長と元彼に迫られています!
数分後、無表情でモニターに映っていた優悟がその顔のまま我が家の玄関にいた。

「・・・これ、昨日の資料。」

昨日友野さんが帰った後二人で話す為に海浜公園に向かう時、優悟が持ってくれたものだった。浜辺で別れる時受け取るのを忘れていたのだ。

「わざわざごめんね!重かったよね。」

『もう会うことはないのかもしれない。』なんて思ったのに、こんなのなんだかカッコ悪い、というかしまらないじゃん、トホホ・・・と思っていると、『・・・いや、車で来たし、大丈夫。』と返される。

「車?」

「あっ・・・。」

優悟は車を持っておらず、二人で旅行に行く時はレンタカーを借りていたので思わず聞き返すと彼は『しまった。』という顔になった。

「・・・あ、えっと・・・お茶でも飲んでいく・・・?」

どうして彼がそんな表情になったのか少々疑問に感じつつ、わざわざ持ってきてくれたのだから、おもてなしをしようと思って言ったが、昨日のことを思い出すと私の顔なんて見たくないだろうと気づき、いらない提案をしてしまったと後悔した。優悟も固い表情で俯いており『・・・いや、ここで。』と返された。

───そうだよね。

悲しい気持ちに呼応して目の奥で何かが湧きだそうとしている。

───ちょっと待って、今あなたの出番じゃないです!昨日充分泣いたじゃないですか。笑顔で終わりたいので、恐れ入りますが今回はご遠慮願いますか?目から溢れるなら優悟が帰った後で・・・。

涙様のご登場を丁重にお断りし、何物もここからこぼれだすことがないようにと上を向いて目を全開にし力を入れていると優悟が下を向いたまま口を開いた。

「上がっちゃったらヤバイから。」

「?ヤバイって?」

彼はそこで顔を上げ、目をひんむいている私の顔を見てぷっと吹き出し、『何、その顔?』とくすくす笑っている。慌てて顔を元に戻した。
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