王子と社長と元彼に迫られています!
「昨日家にいたのって弟さん?」

朝の通勤中、地下鉄の出口を出てビルまで向かう道で紬くんがさらり、と聞いてきた。

「え?」

「ちぃちゃん、窓から手をバッテンにして『今日はダメ!帰って。』っていう顔で訴えてきたから帰ろうとしたら、後ろに誰かいたみたいだったから。男の人っぽかったけど、暁さんにしては身長が低かったし、家族なら家に入れるのかもと思って。」

「あ・・・うん・・・そう弟が来てたの。」

元彼が来てた、とはなんだか言いづらくて思わず嘘をついてしまった。

今朝気づいたのだが、優悟は私に起きたこと全てを夢で見ているわけではないのだと思う。彼は私が部屋を片付けたことを知らなかった。それに彼自身と会っている時のことも見ているのならば、夢で見たことが実際に起きたことだと気づくはずだ。

昨日紬くんとニアミスしたことだっていくらあの場でごまかしたって夢で知るだろう。でも今朝特にそのことについてのメッセージが届いたりはしなかった。夢で見てしまったけれど特に反応してこないだけかもしれないが。

これは仮定だけれど、もしかしたら優悟が見るのは私が彼と一緒にいない時に彼以外の男性と交流を持った場面のみなのかもしれない。一体どうしてそんな不思議なことが起きているのかは全く見当もつかないけれど。

「やっぱり弟さんか。僕と同じ歳で新宿(この近く)でホテルマンしてるって言ってたよね。会ってみたいな。」

「うん、今度ね・・・そう言えば、紬くんは昨日どうしてうちの前にいたの?」
< 58 / 203 >

この作品をシェア

pagetop