王子と社長と元彼に迫られています!
金曜日。今日は午後半休をとっていた。運転免許の更新に行く為だ。ちなみに私は完全なるペーバードライバーで、更新したところで車を購入する予定も運転する予定もない。

何かの機会で『運転して。』と言われたとしても絶対に出来ないのに、履歴書の資格欄に書くのも気が引けるのだが、書かないとそこに書けるのは高校生まで習っていた書道の資格1つのみになってしまうので一応書いている。

───派遣期間満了したら別部署に移れる可能性もなきにしもあらずだけど、また仕事探すことを考えて何か資格とった方がいいのかな・・・トシも重ねていくわけだし・・・経理系とか医療系とか語学系とか、手堅い感じのやつ。全く興味はないけど・・・。紬くんみたいに専門的なスキルがあればなぁ・・・。

昨日はあの後すぐ紬くんに家まで送ってもらった。『朝までここにいて?』その言葉は冗談ではないようだった。彼は普段は無邪気な癒し系なのに、時々『男』が顔を出す。そんなギャップに私はドキドキさせられてしまうのだ。

講習の開始を待ちながら、もし、紬くんとそういうことになったら・・・あの展望室のキスから考えると、あの顔で実はかなり激しいのかな・・・なんて想像しそうになってしまい、顔面を両手でバシッと叩くと近くに座っていた人に怪訝な顔で見られてしまった。


免許更新センターは都庁の庁舎内にあるので会社のあるビルのすぐ近くだった。更新手続きが終わり、カフェでお茶してから帰るか、買い物でもしていこうかな、とやるべきことを済ませた達成感と平日昼にのんびり出来る高揚感に包まれながら歩いていると、キッと音がしてすぐ脇に黒い車が停まった。車の窓が開いて、何度見ても見とれてしまう美しい顔面が現れた。

「ちさ!」

ひどく焦った様子の暁さんだった。

「どうしたんですか?」

「今日これからと明日、何か予定あるか?」

「え?特にないですけど・・・。」

「頼む!俺と一緒に来てくれ。一緒に来るだけでいい。相応の礼はするから。」

「え?え?」

わけがわからずいるうちに彼は車から降りてきて私を助手席に押し込みシートベルトを締めると、運転席に戻って車を発進させた。
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