王子と社長と元彼に迫られています!
「こ、これから一泊の出張に同行・・・!?!?」

驚いて暁さんの芸術的なまでに整った横顔を穴が開きそうなくらい凝視してしまう。たとえ穴が開いたとしてもそれもまたアートだろうな、などと思ってしまう。

「うちの一番大きな顧問先が、東京から社長の地元の名古屋に戻って新しいオフィス───自社ビル───を構えた。その記念パーティーなんだ。社長はやり手の女性なんだが、気難しいというか変わり者で、苦手なタイプなんだ。俺の会社にも変わり者が多くて慣れているはずなんだが、どうしても・・・。」

「・・・はぁ。」

「どうやら向こうも俺のようなタイプは好かないみたいで、打ち合わせの時はいつも女性秘書を連れていっていた。あっちの社員は全員女性だしな。今回も秘書と二人で行くはずだったんだが、どうしても抜けられない急用が出来てしまったんだ。」

「でも・・・私は・・・。」

「無理を言っているのはわかっている。打ち合わせではなくパーティーだし、ただ俺の隣にいて挨拶をしたり料理を食べたりしててくれたらいいんだ・・・ただでさえパーティーみたいな華やかな場所は苦手なのに、あの社長と彼女が選んだ揃って個性的な女性社員達の中に一人でっていうのはちょっと・・・。」

弱々しく言う彼にはもはや悪魔的な部分はどこにもなかったし、華やかな場所が苦手というのも意外だなと思った。どこに誰といても堂々としていられそうなのに。

「・・・わかりました。」

「え?」

「出張、ご一緒します。」

「!!そうか!ありがとう!恩に着るよ。」

前を向いたままの暁さんの顔はぱぁっと明るくなった。真紅のバラが似合いそうな彼のその笑顔はたんぽぽのように素朴で、心の中で何かが(うず)くのを感じた。

すると、車は駐車場に入った。先方にお土産でも買うのだろうか、と思っていると突然体が後ろに倒れた。どうやらシートが倒されて仰向けになったようだ。目の前の景色が駐車場から車の天井になったと思ったら、暁さんの顔が現れた。

「?あの・・・!?!?」

彼は私のコートのボタンを外し始めた。
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